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2017/03/20

Sailor's tale

Red 多分もう10年以上前から、その船乗りは年に何回か、乗り組んでいる船がこの港に寄港するたびに俺の店にやってくる。

これで船乗りが務まるのかと思うような小柄な男で、いつもカウンターに座るとビールを舐めるように少しずつ飲み、航海先での話を問わず語りに語っていく。

「多くの海を渡って、多くの島を巡って、多くの世界、多くの人々の人生を見てきたよ。そして多くの船乗り仲間たちと、こうした世界中の港の酒場で、旅先で見聞きした話を語りあったのも楽しかった思い出だよ」

今日も船乗りは、いつものようにふらりと現れると、いつものようにカウンターの一番端に座り、いつものように一番アルコール度数の少ないビールを頼んだ。酒場にやって来るわりには、酒の飲めない男なのだ。

「そんな船乗り仲間たちも今では随分と少なくなった。わたしもすっかり歳を取った。星のない暗闇の中を航海して、見知らぬ世界と出会うのは、それは素晴らしいことさ。でも段々と、こうした旅暮らしが億劫になってくるのさ。それが歳を取ったっていうことなんだろうね」

最近は髪に白いものが混じり始めた船乗りは、いつものようにポケットから硬貨を取り出すと、いつものようにお釣りの無いように代金をカウンターにそっと置いた。

「それでも船乗りをやめるわけじゃない。いつかまたこの港にやってきたら、またあんたと話をしに来るかもしれないね。その時まで、マスター、あんたも元気でな」

船乗りはいつものように静かに席を立つと、いつものようにそっと店を出て行った。



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