バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
生理的に合わない映画監督というものがいるとするならば、わたしにとってそれはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督です。
『バベル』にしろ『ビューティフル』にしろ、常に『死』をテーマにした彼の映画は、徹底的に誇張された世の中の不快さで満ち溢れています。それは確かに世界の一面ではありますが、映画をエンターテインメントとして楽しむという以前に、その映画がもたらす不快さに我慢がなりません。観客に提供される商品であるという映画の側面から考えると、あまりに独りよがりであり、非ユーザーフレンドリーなのが彼の作品だと感じます。そんなイニャリトゥ監督がついにアカデミー賞で4部門を獲得したのがこの映画です。彼は変わったのでしょうか、変わっていないのでしょうか。
テーマはいつもと同じ『死』です。死にゆく男の、死に際の苦悩をひたすらに描いています。しかし、その描き方は大きく変わりました。この映画での『死』は『俳優としての死』に置き換えられているのです。そうです、これはデフォルメされた『ビューティフル』なのです。主人公の不潔な生活環境は、雑然としながらもきらびやかな楽屋に置き換えられ、不愉快な手振れカメラはとても滑らかな疑似ワンカット映像に生まれ変わりました。
不変のテーマをとても居心地がよく整えられた衣でくるんでいる。これは迎合や鈍化ではなく、深化であり成熟であるのでしょう。刺々しい外皮で人を寄せ付けないのではなく、広い間口で多くの人を取り込んでいく。取り込まなければ伝えたいことも伝わらないし、伝わらないのはさみしいことじゃないですか。大衆のものである映画とは、やはりこういうものであってほしいです。
優れたその手腕を、初めて観客をもてなすために使ったイニャリトゥ監督。
その結果が栄冠につながったというのがとても喜ばしい。
21/2015
#690
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