ソロモンの偽証 前篇・事件
プロットよりも詳細な人物描写に重点が置かれた宮部みゆきの長大な原作。それをどう脚色するのか。それが本作の第1の注目点だ。
これは実に大胆かつ、的確な原作からの削除っぷりが見事である。
人物描写を大幅に省くどころか、主要な登場人物さえも思い切って削除している。そうしなければ映画の枠に入りきらないことはわかっていても、なかなかできるものではない思い切りの良さだ。当然それによって原作の良さが失われていることは間違いないが、この単純化によってメリットが生まれているのも確かである。
原作で一番弱かったところ。それは「なぜ裁判なのか」という根本的な部分での説得力なさであったと思う。その唐突感のある物語展開を、膨大なエピソードによる感動で押し切ってしまっているのが原作であり、それはまた宮部みゆきらしさでもあるであろう。本来群像劇であるこの物語を、映画版では主人公としての藤野涼子を強く打ち出し、また裁判を彼女の『戦いの場』として単純化している。そしてその単純化とテンポの良い演出で、原作にはなかったスピード感、緊張感を生み出している。裁判が始まるまでが長く感じた原作との、ここが大きな違いである。この方法論には当然賛否あるだろうけれども、そぎ取るだけでなにも付け加えられない脚色が多い中で、そぎ取った分だけちゃんと付け加えている本作は、とても立派だと思う。
そして第2の注目点は、どれだけよい子役をそろえられるのかという点である。
これは大規模なオーディションの成果がちゃんと出ているように感じられる。どの子供たちもちゃんと観客の印象に残る存在感を持っている。主演の藤野涼子には相当の重圧がかかっているが、その固く張りつめた雰囲気は映画のテンションにぴったりマッチしている、というよりも彼女が映画のテンションを生み出しているのだろう。
唯一の心配は、原作未読の観客にもちゃんと楽しめているのかどうかだ。
14/2015
#683
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