スパイ・レジェンド
そのスパイ像は、もちろんジェームズ・ボンドとは全く異なるものだ。
敵だろうが味方だろうが、邪魔するものは排除する。『ノヴェンバー・マン』のやり方は、冷酷で容赦がない。そしてそんなスパイ像は、敵の中にも味方がいて味方の中にも敵がいるという、混沌とした本作の物語にはとてもマッチしている。ジェームズ・ボンドのようなファンタジックなヒーロー物語ではなく、本作はあくまでもシリアスなスパイたちの物語なのである。適度に入り組みながらもスピード感を失わない展開、荒唐無稽にならない程度の適度な派手さを持つアクション、スパイ映画としてとてもバランス感覚がよく、素直に楽しいと思える映画に仕上がっている。
そして殺伐とした物語の中で、最後の最後でものをいうのが『ノヴェンバー・マン』の人間的な温かみであるという部分が、本作の後味をとても良いものにしている。冷たさと温かさ。そんな『ノヴェンバー・マン』の二面性を演じ切るのがピアース・ブロスナンである。ショーン・コネリーの冷酷さとロジャー・ムーアの甘さを併せ持つ最強のジェームズ・ボンド。そんな彼のもつ二面性がこれほどまでに効果的に生かされているということに感動する。
正直そんなに期待していなかった映画だけれども、ピアーズ・ブロスナンのスパイ映画というだけで私は満足できると思っていた。それがこれほどよい映画であったという驚き、それはもう無上の喜びです。『ノヴェンバー・マン』というシンプルな原題の映画に、あえて『スパイ・レジェンド』という大げさな邦題を当てた配給の角川の意気込み。それは映画の出来の良さに裏打ちされた自信の表れだったということがよくわかります。
『007』シリーズは続いているけれども、それはもう『伝説』ではない。
現役で活躍している最後の『伝説』は、やはりピアース・ブロスナンなのです。
03/2015
#671
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