X-MEN : フューチャー&パスト
生みの親ブライアン・シンガー自らの手による、『X-MEN』最終章。
【フューチャー】
『X-MEN』シリーズは、ヒーローものに典型的な善悪の戦いの物語ではなく、善悪で割り切ることのできない三つの陣営の、三すくみの物語だ。そして『ファイナル・ディシジョン』までの三作では、その三すくみの中で明確なドラマ性を打ち出すことはできず、終始小競り合い的なアクションに時間を費やすだけに終わった。ユニークな多くのキャラクターを生かすことができず、尻すぼみでその幕を閉じた。多くのミュータントたちが愛なく使い捨てられた。締めくくりとなる『ファイナル・ディシジョン』の監督を、『スーパーマン・リターンズ』のために降板したブライアン・シンガーは、そのていたらくをどう見ただろうか。
【パスト】
仕切り直しで生まれた『ファースト・ジェネレーション』。ヒュー・ジャックマンやハル・ベリーなどのスター軍団から一気に若返ったフレッシュなミュータントたち。三つの陣営が生まれる直前の、幸せだった最後の時代。未熟な彼らの、未熟ゆえの切ない物語。戦いではなく、あえてミュータントたちの青春時代の物語に焦点を当てたその内容は、前三作が持ちえなかった高いドラマ性と、ミュータントたちのキャラクターに対する愛に満ち溢れたものだった。
【そして、フューチャー&パスト】
そんな二つの時代をひとつにする。実に不安感をあおる企画だ。ヤング・ジェネレーションの続きをそのまま創ってくれればいいのに。それが正直な気持ちだった。あのとっちらかった大人たちの時代を、繊細な若者たちの時代に持ち込んでほしくなかった。
そして、本作でふたたび登板したブライアン・シンガーは、やっぱり『X-MEN』をわかっていたし、ミュータントたちを愛していた。
過去に乗り込むウルヴァリンも、未来で死闘を繰り広げるストームをはじめとする新ミュータントたちも、本作ではあくまでも脇役だ。誤解をおそれずに言えば、未来パートなどはどうでもいいのだ。チャールズ、エリック、ハンク、レイブン。ひとりの女性と、彼女を取り巻く三人の男性。前作で袂をわかった彼らが、再び、そして最後にあいまみえるまでの物語。それこそが、ブライアン・シンガーが選択した最後の『X-MEN』だった。『ファイナル・ディシジョン』であっけなく退場を余儀なくされたチャールズとレイブン。彼らのキャラクターは、本作において救われたのだ。
『苦痛を耐えることで、人は強くなれる』
チャールズが、チャールズに伝えるメッセージ。それはここまでシリーズのなかで苦しんできたたくさんのミュータントたちと、そして、苦しみを抱える世界中の人に対する励ましなのだ。
そしてブライアン・シンガーは、『ファイナル・ディシジョン』までの三部作を『破壊』した。そしてシリーズを『封印』した。もう誰にも、続きは創れない。
若かった彼らの、美しく、はかない思い出。
それがブライアン・シンガーが選んだ『X-MEN』の最後の記憶となったのだ。
33/2014
#620
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コメント
こんにちは、お久しぶりです。
さすが、うまくまとめていますね!
シリーズモノにあって、根幹に戻って修正してしまいなかったことにしてしまうのは、反則技だと思います。
あの悲しみや感動を受けた人もいたと思います。それらもひっくるめて…麻雀でいうところの「ちゃい!そのうーぴんちゃい!」と同じですね。(^^;
いろいろなアクションシーンとかは堪能できたのですが残念でしたねぇ。
ただ完全に同じ世界ではなく、ミュータントと人間の確執も緩和されて、ウルヴァリンの爪もどうなのかなぁ…でも三すくみの状態がなければ、それはX-MENの世界ではないとも言えますね。
トラックバックありがとうございました。
こちらからもさせていただきました。
投稿: 白くじら | 2014/06/06 21:18
白くじらさん、コメントありがとうございます。
わたしは『ファイナル・ディシジョン』が気に入らなかったクチなので、この映画で大いに溜飲を下げましたよ(笑)
この映画の最後、どうやらミスティークがストライカーになりすましていた感じでしたよね。だから彼女がしっかりとウルヴァリンの爪をアダマンタイトに改造して、帳尻を合わせてくれるのでしょう。
投稿: starless | 2014/06/06 22:46