シュガーマン 奇跡に愛された男
アメリカでデビューするも、全く売れずに消え去ったミュージシャン。
別に珍しい話ではない。というよりも、実にありふれた話なのだと思う。
本人は音楽の道をあきらめ、そのまま地元で普通に暮らす。これもよくある話である。
ただ、このロドリゲスというミュージシャンの話が普通でないのは、誰も意図しなかったのに、考えてもいなかった地域で、本人も全く知らないうちに、爆発的にアルバムが売れてしまった点にある。
周辺世界から隔絶され、抑圧されていた南アフリカの人々。
そこでなぜか、デトロイトでの貧しい暮らしを歌ったロドリゲスの曲が、反権力のアンセムとなってしまう。そしてロドリゲスが誰にも知られていないがゆえに、彼は神秘的なアイコンとなってしまう。
昔の情報量が少ない時代には、ミュージシャンにはさまざまな伝説があった。
周囲よりもより情報量が少ない南アフリカにおいて、もっとも色濃い伝説が発生してしまったというわけだ。そしてロドリゲスが誰にも知られていないがゆえに、そのアルバムは権利者にも無断でコピー販売され、皆に愛聴されることになったのだ。
人間ドラマとしての面白味は少ない。だってロドリゲスは何もしていないのだから。このドキュメンタリーの主役は、ある意味ロドリゲスではない。
ここで描かれるのは、音楽ビジネスの面白さや不思議さ。そして音楽が及ぼす人への影響。それは作り手の意図していない形で、意図していなかった相手に、独り歩きして勝手に伝わってしまうこと。
音楽の神様の奇妙なイタズラをとらえたのが、このドキュメンタリーなのだ。
29/2013
#507
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