リンカーン
もともと伝記といえば、トップに登り詰める課程を描く『サクセス・ストーリー』が主流だったような印象がある。
でも先日の『ヒッチコック』もそうだったけれど、この『リンカーン』も描かれているのはそのキャリアの後半部分。すでに得ているものをどう維持し、そしてのちに何を残すのか。そこにあるのは『サクセス・ストーリー』ではなく、一人の人間の晩年の物語だ。
スピルバーグ監督の映画には、どうしてもダイナミックで動きのあるものを期待してしまう。この映画も南北戦争が背景なだけに、スペクタクルな戦争シーンが含まれるものと思っていたけれど、開けてみればほとんどが室内劇。そのあたりの期待は大きく裏切られる。しかしどんなドラマでもサスペンスフルに引っ張る手腕は健在。一票をめぐるギリギリの攻防のテンションは高い。
しかしネルソン・マンデラを描いた『インビクタス』を観たときの思ったのだけれど、政治家のドラマは演じ手が優れていればいるほど、映画として素直に感動できない面を見せてくるように思える。この映画のリンカーンは、大統領という最高権力者の地位にありながらも、その毎日は綱渡りの連続だ。結果のためには過程は問わない。求められているのは、最も効率のよい説得だ。
相手からの問いかけに対して、正面からぶつかっているようでいて、巧みにそらし、回り込み、相手の一番弱いところを狙い、突く。見かけは感動的なフレーズだけれども、それは冷静に計算されていて、もっとも効果的に運用されている。それは、たとえ相手が家族であってもだ。
それでもダニエル・デイ=ルイスは、物言わず一人で佇むリンカーンの姿に、信念のためにはあらゆるものを犠牲にしなければいけない、そんな政治家の悲哀を込めることが出来ていたと思います。
31/2013
#509
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