のぼうの城
小説『のぼうの城』の魅力は、時代小説でありながら、まるでライト・ノベルに登場するような、わかりやすい現代的なキャラクターを配したことによる、圧倒的なスピード感と、すがすがしさだと思うのです。
そしてこの映画は、そのあたりの魅力をそのまま上手に映像化していたと思います。配役もベテランから若手まで、原作のイメージに沿った魅力的なキャラクターをつくりあげていたと思います。
ただし、一人をのぞいて。
それが、この映画で一番の懸念材料。
唯一、明らかに原作とはイメージの合わないキャラクター。
野村萬斎演じる『のぼう』こと成田長親。本作の主人公をどう評価するべきでしょうか。
『のぼう』は文字通りでくの坊。もっさりとして無口で愛想がありません。でも、別に変人ではありません。野村萬斎版のぼうは、一見すると明らかな変人です。奇矯な振る舞いばかりが目につきます。『のぼう』がどうして人々に慕われていたのか。野村萬斎版ではそのあたりがあまり伝わってきません。
そして、そのあたりを観客にしっかり伝えておくことが物語の非常に重要なポイントであることは、この映画を最後まで観ていただければおわかりだと思います。
では、野村萬斎を配したのは失敗だったのか。それがまた、そう簡単には言い切れません。
彼には、華があるのです。映画の主演者に必要な、観客を引きつける魅力があるのです。
小説版の『のぼう』を再現するには誰に演じさせればいいのか。悩みますよね。
また原作に忠実に演じたとしても、観て楽しめるキャラクターになったかどうかはわかりません。
だから実より花を取ったとしても、それは安易な選択ではなく、優れた戦略かもしれません。
なぜなら映画は目で観て楽しむものだからです。
ある原作に対して、どんなアプローチで映画化するか。
このあたりはほんとうに千差万別で、とても興味深いものがありますね。
そして最後に。
この映画の戦闘シーンはほんとうに素晴らしいものでした。
スケールこそありませんが、そのスピード感、なにより美しさ、そして残酷さ。この部分は、樋口監督の功績なのでしょうか。
そうだとしたならば、掟破りの『二人監督』は大成功だったということでしょう。
71/2012
#467
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