裏切りのサーカス
その昔、フレデリック・フォーサイスの『悪魔の選択』を読んで、海外のスパイ・スリラーへの興味が急激に高まったことがありました。
当時はインターネットもなく、情報を収集するすべもなかったため、書店の本棚や文庫本の解説ページなどをたよりに、ジョン・ル・カレやロバート・ラドラムに行き着いたのですが、残念ながら子ども時代の私には、どちらもあまり面白く感じられなかった印象があります。
特にジョン・ル・カレ。読んだのは『寒い国から来たスパイ』だったと思うのですが、とにかく地味でした。大がかりな陰謀や派手なアクションはありません。疲れて、ちょっと荒んだ大人たちが、延々と嘘をつき合い、足を引っ張り合う。どう考えても子どもが読んで楽しめる内容ではありませんでした。
そのジョン・ル・カレの代表作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が『裏切りのサーカス』として映画になりました。せっかくなので映画鑑賞前にと、初めて『ティンカー』を読んでみたのですが、昔と比べると遙かに面白く感じました。
それはそうですよね。今はもう私自身が、『疲れて荒んだ』大人になってしまったのです。だからわかるのです。作中の彼らの気持ちが。彼らの中の倦怠や、不満や、不安が。
そういう意味では、ジョン・ル・カレが『大人のスリラー』と言われるのも、もっともなことだと思います。
この映画は、その原作の雰囲気、冷戦時代の雰囲気がとてもよく表現されていたと思います。映像も現在のシャープな映像ではなく、ちょっと甘めの昔風。そして大人たちの野望と、大人たちの苦悩。それは原作同様、大人になってから観ないと、そのよさは分からないものかもしれませんけれども。
ラドラムも、ジェイソン・ボーン・シリーズが映画化されたときにもう一度読んでみようと思ったのですが、もうその多くの作品が絶版なのですよね。文学、特に海外文学は、相当有名な作者でも、簡単に絶版となってしまうようです。『ティンカー』でさえも、今回の映画化をきっかけに久しぶりに再版されたようです。
それと比較すると、昔の作品でも簡単にDVD等で鑑賞できる映画は、まだ恵まれていますね。
32/2012
#428
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