J・エドガー
これは、報われることのなかった3つの献身の物語。
母の望むような存在であり続けるために、終生自らの柔らかい部分を殺し続け、その『力』で世界を正しく浄化しようとした男。たくさんの武器や戦士像、彼は『力』の象徴に囲まれるようにしてその生涯を終えた。
唯一無二のパートナーの立場を得ながらも、自らが願う意味でのパートナーとしての位置には、生涯つくことの出来なかった男。それでも彼はそばに寄り添い続け、その最期を看取ることになった。
仕事を理由に求愛を退け、その後数十年に渡って忠実にその職務に尽くした女。自ら望んで『ミス』であり続けたにもかかわらず、『ヘレン』と呼ばれたとき、なぜ心はゆらぐのだろう。パンドラの箱を守る孤独な番人の心の中は、最後まで秘密のままだ。
アメリカの裏歴史を暴くようなものではなく。この映画はあくまでもこの3人の、愛情と孤独の物語だ。もしかしたら観客は、それを物足りないと感じるかもしれない。それでもイーストウッド監督の持ち味を考え合わせれば、この切り口こそが正解なのだと思う。
彼の映画の中心にはいつも、飾り気無く描き出された、自分に正直に生きる人間の姿があるのだから。
8/100
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