源氏物語 千年の謎
Written In The Sand
これは、そもそも原作に難があると思うのです。
源氏物語を書く紫式部の世界と、源氏物語のなかの光源氏の世界を交互に描きつつ、紫式部の情念によって物語が現実世界を浸食してしまうのを、安倍晴明が食い止めるというお話。まぁ、歴史ファンタジーです。
一見おもしろそうですが、明らかに企画倒れだと思います。
紫式部に限らず、そもそも作家が良くも悪くも自分の中の情念を小説にこめるというのは至極当たり前のことだし、不思議でも秘密でもなんでもないことです。それがまかり間違って物語世界と現実世界をつなげてしまうのは百歩譲っていいとしても、それがなぜ災いをなすのかが説明不足、その恐怖感をアピールできないのです。だいたい『千年の謎』とかいいながらも、なんの謎もないのです。
ファンタジーとしてのアイディアが不足しているまま、各キャラクターの想いをてんでに書き連ねるので、早い話がどのキャラクターも自己陶酔的で気持ちが悪いです。特に光源氏などはマザコンの甘ったれ野郎としか思えず。源氏物語は世界中で読まれている名作だということですから、本当はこんな人物じゃないのでしょうねぇ。これはひとえに、作者の責任なのだと思います。
そして映画です。小説よりはよくなっています。時代背景や人物関係を小説よりも説明しにくいという、映画のハンデを背負いながらもがんばっています。
でもそもそものスタート地点が低すぎるので、多少よくなっても全然追いつかないのです、残念ながら。原作を遙かに超える素晴らしいアイディアが映画にあるわけでもなく、原作の範囲内で精一杯がんばっているだけですから、伸びしろはたかがしれています。
これ、角川映画なんですよね。
映画を見終わった観客に「原作を読んでみたいな」と思わせ、原作を読んだ読者に「小説って面白いな、もっと小説を読んでみたいな」と思わせること。そうして小説界の裾野を広げていくのが本屋の仕事でしょう。
だから角川映画の原作小説は、絶対面白い小説じゃないとダメなのです。原作読んで「小説は映画よりひどいなぁ」だったら、小説界の首を自ら絞めることになるのです。
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