一命
Throw Down The Sword
この映画の物語。それは貧困や格差、家族愛などを中心とした人間ドラマに一見思えるのだけれど、実はそれは本質ではないのかもしれない。
どちらかというと寓話的な。皮肉で滑稽な状況を冷笑するかのようなクールな視点が根本にあるのだろう。
主人公の半四郎。彼の行動は復讐であり、告発であり、問題提起であるように思える。
でもどうだろう。確かに武士は既得権益の上にあぐらをかき、自ら生産せず、周囲の貧しさの上にその生活を築き上げている。
でも、それを糾弾する半四郎自身が武士なのである。世が世なら、利権をむさぼる側に遠慮無く回る立場なのだ。
体面を重んじる余り『武士の情け』を示さず、求女を死に至らしめた家老たち。
自らも体面を重んじる武士でありながら、臆面もなく『武士の情け』を求める半四郎。
どちらも見苦しい。どちらの言い分ももっともなようでいて、どちらの言い分もばかばかしい。
戦争のない世の中で、まったく無用の存在となりながらも庶民に養われ続ける『武士』という殺人者集団の歪み。それがこの映画の主題であり、それは十分に描かれていたように思える。
日本映画の『善』の象徴であるような役所広司を、あえて家老としてキャスティングしたことが、このどうどう巡りのような物語にとても効果的だったようだ。
どっちにも共感できないようなもやもや感。それがこの物語の本質であるけれど、ひょっとしたらそのすっきりとしない感じが、評価を分ける要因になってしまうかもしれないけれど。
95/100
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