神様のカルテ
I'm A Loser
物語がほとんど同じでも、主人公の人物造形が異なると、作品としてのテイストは大きく変わってしまうことがよくわかります。
変わり者、変人であるという基本ラインは同じなのですが、その感触、色合いはかなり違います。どこか陰鬱で、茫漠としていて、スローな映画版の主人公。自ずと映画の手触りはウェットになり、笑える要素は少なくなり、小説版のさらっとした感動はすっかり失われてしまいました。
どうしてこんなに、いつもボーッとしている感じの主人公になってしまったのかがわかりませんが、このような造形にする「ねらい」のようなものが一切感じられず、小説版と比較してのマイナス点ばかりが気になりました。
もちろん小説のとおりに映画化する必要はありません。整理して切り取ったり、付け加えたりするものがあるのは当たり前です。
それでも小説のよいところを切り取り、かわりに付け加えたところがそれを補い切れていないような気がしてなりません。それは主人公の造形だけではなく、映画全般にいえる気がします。
たとえば。
小説ではそっと隠すように手渡されていたカステラ(患者さんは禁食状態でした)でしたが、映画ではハルがわざわざ病院に持ってきて、ナースステーションのみなさんにもお裾分けして、みんなでワイワイと食べていました。
小説では「屋上で山を見る」というささやかな願いをそっとかなえてあげていました(患者さんは絶対安静でした)が、映画ではなぜか屋上には病院のスタッフが大勢集まり、さらにハルまでが現れて記念写真を撮っていました。
結局は小説版の「ささやかなよろこび」という部分を切り取って、大勢が集まって派手な感動シーンに差し替えている感じです。確かに『絵的』には、この方がにぎやかな盛り上がり、感動を演出できるでしょう。ハルは確かに原作のイメージ通りのはまり役でしたから、もっと出番を増やしてあげたかったのかもしれません。しかし、それは原作のよさを理解したうえでの改変だったのでしょうか(原作のよさなど知ったことではない、という映画化のスタンスもありかもしれませんが)。
同じ物語を違うスタンスで演出した結果、なんだか映画の方が圧倒的に負けている気がして残念ですね。
79/100
#359
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- マグニフィセント・セブン(2017.02.18)
- ザ・コンサルタント(2017.01.28)
- 本能寺ホテル(2017.01.23)
- アンダーワールド ブラッド・ウォーズ(2017.01.09)
- Year 2016(2016.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント