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2011/07/28

犬神家の一族/横溝 正史

InuLove To Love

映画の面白さを教えてくれたのがスティーヴン・スピルバーグ監督なら、
小説の面白さを教えてくれたのは横溝正史先生です。

時は角川映画を牽引役とした横溝正史ブーム。その複雑な人間関係を把握するのは小学生には難しすぎるわけですが、辞書片手に夢中になって読んだものでした。
マンガやテレビ、映画とも違う小説の面白さ。推理小説からSFへ。国内から国外へ。世の中には、なんてたくさんの面白い小説があるのでしょうか。

ここ数年少しずつ、金田一耕助シリーズを事件順に読んでみました(こんなことを思いついたとき、ほんとうにインターネットは便利です)。
『本陣殺人事件』から『病院坂の首縊りの家』まで。
おどろおどろしい雰囲気は子どもの頃の記憶のままですが、その文体が意外と軽妙で読みやすいものであることが印象的でした。とても昭和20~30年代に書かれた作品だとは思えません。
絶版となって読めない短編もたくさんありますが、主要な長編は今なお簡単に手に入る。そんなエヴァーグリーンな人気の秘密はこのあたりにあるのかもしれません。

通して読んでみると、全てが傑作でないのもよくわかります。
昭和30年。それは『悪魔の手鞠唄』の年です。
この年以降、明らかに作品の面白さは低下してしまいます。

その原因はなんなのでしょう。
昭和30年代以降、金田一耕助は東京に事務所を構え、事件も主に首都圏で起こるようになります。そうなのです。ビルの建ち並ぶ東京は、金田一耕助には似つかわしくないのです。
金田一耕助が一番映えるのは、やはり因習と愛憎が渦巻く、終戦直後の中国地方や信州なのです。

金田一耕助は、『愛』の探偵だと思います。
それは依頼人や被害者への『愛』だけではありません。その周辺にいる村人たち。時には共に活躍する警察関係者。そして、なによりも特徴的なのは犯人に対しても。
道を踏み外して修羅の道を歩むことになってしまった加害者に対してさえも、金田一耕助は『愛』のまなざしを向けるのが、とても印象的です。
健気に生きている人間たちへの暖かい想いこそが、金田一耕助を金田一耕助たらしめているのだと思います。

そして、だからだと思うのです。
経済成長が始まり、闇が薄れ、世の中が安定すると共に、皆が富を追い求めるようになる。
そこにある自己中心的な犯罪。愉快犯的な猟奇事件。愛欲や金銭欲が動機となる殺人事件。
その登場人物にはもはや『愛』も『想い』もなく、そしてそこにはもはや、金田一耕助の居場所はないのです。

あの時代、あの場所だからこそ光り輝いたのが、金田一耕助だったのかもしれません。
今なお燦然と輝く作品群。それらに出会えたことに、本当に感謝しています。

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