SPACE BATTLESHIP ヤマト
何もかも…みな懐かしい
コミックを実写映画化する方法論として、たとえば『バットマン』ならば、ティム・バートン版とクリストファー・ノーラン版ではその方法論は大きく異なっていた。
バートン版は、コミックをそのまま実写化したかのようなコミカルさ。コスプレ大会のようなにぎやかさを。
ノーラン版は、現代的な解釈を施した厚みのある人間ドラマと、モダンでダークな世界観を。
本作の方法論は、この両者の折衷案である。よく言えばいいとこ取り。悪く言えば中途半端である。
冒頭の『無限に広がる大宇宙…』のナレーションから、前半はコスプレ、名シーン、名セリフのオンパレード。さまざまな実写再現シーンの連続には、不覚にも感動を覚える。数十年ぶりなのに、いかに『宇宙戦艦ヤマト』が身に染みついているのか思い知ってしまった。
柳葉敏郎の真田さんなどは、まさに声帯模写。思わず爆笑ものである。
しかし予告編でのガミラス艦隊の有機的デザインを観て、そしてなかなか発表されない異星人側の配役からうすうす想像していたとおり、異星人側の設定、そして後半の展開は大きくアニメ版と異なる。あのような『個が全てであり全てが個である』ようなネットワーク型の生命体の概念は、アニメが生まれた70年代には多くの人には想像不可能なものであったかもしれず、そういう意味では後半はかなり現代的なモダンなアレンジを加えていたのだと思う。
どうしてこうなったのかは理解できる。
もし全編がコスプレ大会だったら、それはSF映画と言うよりもコメディー。早い話が『新春スターかくし芸大会』になってしまう。それは監督的には許せなかったのだろう。
しかし全編がオリジナル解釈によるモダンな設定だったとしたら、これだけの製作費をスポンサーから集めるだけのインパクトはなかったかもしれない。一見して『ヤマト』とわかる表層はビジネス的には必要不可欠であったろう。
しかし、もっと突き抜けて欲しかった気もする。
デスラーが青く塗った中井貴一や佐藤浩市だったら、いやいやいっそ伊武雅刀(声の出演でしたね)だったらすごかっただろう。イスカンダルに着いて金髪にした小雪がいたら笑えただろう。みんな心のどこかでそんな期待をしていたはず。
モダンにするなら制服をあのデザインにする必要もないし、そもそもヤマトが戦艦大和の形をしている必要なんかなかっただろう。もっとリアルでメカニカルなバトルシップにしても面白かったと思う。
ただ、中途半端ではあったけれど、それなりにどちらのヤマトも楽しめたことは事実。
『二兎を追う者一兎を得ず』ということはなく、二兎を追って合わせて一兎分くらいは得ていたのではないだろうか。
この手の映画は作り込みが命。ハリウッドのSF大作と比べたら本作の予算規模はたぶん10分の1くらい。技術では補いようのない大きなハンデがある。それでもそのクオリティは10分の1を遙かに超えていただろう。
山崎監督と白組のみなさんには、『三丁目の夕日』シリーズでお金を貯めて、またこういうSF映画をぜひ創っていただきたいものです。
○その他 1
仮死状態の森雪のもとにかけつける佐渡先生。「AEDもってきたわよ」
…184年後なのに、まだそんなもので救命しているとはびっくり。
○その他 2
とにかくテンポがよい本作。波動砲、ワープ。昔の緊張感はどこへやら。どんどん撃ってどんどん飛びます。ついでに古代と森雪の恋愛も唐突なほどスピーディー。いつの間にか二世まで。
上映時間の関係でしかたないとはいえ、時代ですかねぇ…。その割りには、玉砕直前のシーンがいやに長くて。泣き所強調しすぎです。
○その他 3
きら星のようなスター軍団の中で、あまりに不憫な堤真一。
ストーリーの変更により、感動シーンとなるはずの守&進兄弟のイスカンダル再会は完全カット。1分程度の出演時間は艦橋モニター画面の中。あとは随所で数秒映る記念写真(笑)。その写真の中のおどけた表情がまた涙をさそいます。
ラストで特攻するヤマトの前に突如現れた傷だらけの守の『ゆきかぜ』。
「進。お前は生きろ。俺が行く」
…そんなかっこいい再登場シーン、ないんだよなぁ、やっぱり。
#265
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コメント
壮大な“ごっこ遊び”でした(爆笑)
一応、ヤマト世代としては、見ないと文句もいえないし・・・
というわけで、観ました。
森雪を戦闘員にしてしまった罪は重いですが。
しかし、いまだ抜け出せないものか『特攻』
波動砲でガミラス残党を蹴散らして、生還するのはいけないこと?
つか『ヤマト』としては、真田さんの置き土産的脱出ポッドの
ひとつやふたつあっても良いと思うんですが。
アナライザーがあんなんなら、色々出来そうなのに・・・。
投稿: sintaro | 2010/12/05 23:08
> SINTARO さん
コメントありがとうございます。
『特攻』でしたね。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』でした。
イメージとして戦艦大和と『特攻』は切り離せませんし、
ヤマトの生まれた70年代はまだ終戦から30年位しかたっていませんでしたからね。
メンタル的に、ヤマトはとても『旧日本』でした。
そこをアレンジするとなると、もはや沖田艦長に居場所はないかもしれません。
投稿: starless | 2010/12/11 11:18