インビクタス/負けざる者たち
どんなものにも『こつ』がある
(『しあわせの隠れ場所』より続く)
『しあわせの隠れ場所』がスポーツ+ホームドラマだとすると、
『インビクタス』はスポーツ+政治ドラマだ。
そして『しあわせ』がホームドラマ部分に一つの欠点を抱えているとすれば、『インビクタス』はスポーツ・政治どちらにも欠点を抱えてしまっている。
スポーツ部分の大きな欠点としては、見ておわかりのとおり『どうやって強くなったのか』が一切描かれていないことだ。もちろん実話だからして、勝ってしまったものはしょうがない。でも「たくさんの努力や工夫を重ねて勝ち進む」というスポーツものの一番面白いところがすっぽり抜け落ちてしまっては、スポーツものとしては盛り上がらないことはなはだしい。事実はどうあれ、嘘でもいいからさまざまなトレーニングシーンなどを入れて盛り上げてほしかった。
そして政治部分。これは実は欠点ではないのかも知れないけれど、もし『インビクタス』を「感動のヒューマンドラマ」として盛り上げようとしたら、マンデラの『赦しの人』としての側面を強調していくべきだったと思うのです。でも実際本作では、後半にいくにしたがって、マンデラのしたたかさ、使えるものはなんでも使う豪腕さが強調されてしまっている。ラグビーへの肩入れも、ラグビーに対する愛からではなく、純粋に政治利用目的であることがしっかり描かれてしまっている。
これも実際そうだったんだからしかたないし、そうでもしなければならないほど政治的に大変な国を率いていたのだから当然の姿なのかも知れない。でもそんなきれい事でない姿を映画で描いてしまうと、場合によっては感動どころかマンデラの『ずるさ』を観客に感じさせることになってしまい、『感動映画』としては大きなマイナスとなってしまう。
そしてこの部分を救っているのが、マンデラを演じるモーガン・フリーマンの存在だ。基本的にはいい人なのだけれど、政治家としての計算高さ・ずるさ・したたかさも十分にもちあわせていたマンデラ。そんな彼の『ずるさ』を描きながらも決して『イヤな奴』と感じさせていないのは、彼のひょうひょうとした演技に負うところがとても大きい。政治家の負の部分を、彼のキャラクターがうまく相殺してしまっている。
そしてこれらの欠点を持ち合わせていながらも、なぜかこの映画は面白い。そしてそれはクリント・イーストウッド監督の功績なのだ。
たぶんこの人は知っているのだろう。面白い映画の作り方。テンポよく、無駄なシーンなく、過剰な演出なく、でも伝えるものは伝える。たぶんそういった、ある種の『リズム』のようなものは、きっと長い映画生活の中で身体で覚えたもの。
そしてそんな『秘伝』の前では、ちょっとした欠点なんて問題にならない。欠点なんか気にならないように、仕上げてしまうのです。
『しあわせ』は欠点がそのまま残ってしまったけれど、
『インビクタス』は素材の欠点が気にならないほど、見事に調理されてしまっている。
この差は、結構大きいかもしれない。
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