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2009/12/06

カールじいさんの空飛ぶ家

Gsan 大きな冒険 小さな冒険

確かに感動的なのです。予告編でも取り上げられていた映画冒頭の回想シーン。映画が伝えようとする『大切なもの』。まるでアルバムをめくるかのように、そして無声映画のように。断片的なシーンのをひたすらセリフもなくつなげていくだけ。それがごくごく当たり前の人生の、ごくごくあたりまえだけれど、とてもとてもかけがえのない幸せを描いていく。

ピクサー映画の冒頭には、いつも短編映画がついている。数分間の、セリフもないようなショートフィルム。その出来の良さを見ればわかるように、もはやこうして短い映像だけで感動を与えるのは、ピクサーの実力をもってすれば何でもないことなのだろう。

しかし本作の場合、その感動が本編においてどのような位置を占めるのか。そう考えるとちょっとちぐはぐな感じを受けてしまう。あえていえば、その感動が『浮いて』しまっているような気がするのです。

かなえてあげられなかった『大きな』冒険。それに囚われてしまったカールは、妻と二人で過ごした毎日の『小さな』冒険の素晴らしさを見失ってしまう。そして少年との交流を通してカールは『大きな』冒険にこだわることの愚かさに気がつき、『新しい』冒険に一歩を踏み出す勇気を得る。

この映画のストーリーは、たぶんこういう流れなのだと思います。これは別におかしくはありません。再出発ものとでもいいますか、まぁ、よくある話でもあります。問題なのは、たぶんいくつかの微妙な『くいちがい』なのだと思います。

カールが気がついたことは、『大きな』冒険にこだわることの愚かさであり、過去にこだわることの愚かさではないはずです。逆に冒頭の感動シーンからも導かれるように、過去に繰り返した『小さな』冒険こそが素晴らしいものであると気がついたはずなのです。しかし本作では、なぜかカールが過去そのものと決別するかのようなシーンがいくつも盛り込まれています。家を再浮上させるために想い出の品を投げ捨てるカール。「ただの家だ」とつぶやくカール。『新しい』冒険のために過去を捨て去るかのような印象は、『小さな』冒険の価値を示すべき本作の物語の流れに反してはいないでしょうか。

そしてカールが勇気をもって踏み出した『新しい』冒険について。それは物語的には、彼が価値を再確認したような『小さな』冒険であるべきだと思うのです。また前のようにこつこつと、小さくてありふれているけれど、とても大切な冒険を繰り返して行くべきだと思うのです。幸せは大きさではない。『レミーのおいしいレストラン』でも描かれたこのテーマを強調するような冒険であることが、本作の物語の軸としてふさわしいと思うのです。でも本作の『新しい』冒険はとても『大きな』冒険です。まさにアドベンチャー。大冒険。ここでも『小さな』冒険は軽視されてしまうのです。

また二人の想い出の人物があのような形で配置されているのも大きなマイナスです。意外性はありますが、これもまた過去を否定する印象を与えます。彼を『悪』として配置するのではなく、たとえばカールに対して、冒険の本質について示唆するような役割を与えてあげるだけでも、だいぶ印象は変わったのではないでしょうか。

つまり全体として見ると、冒頭に大きな感動があるものの、それ以降に、それを支えて増幅していくような要素が見あたらないのです。もちろん本作で描かれる冒険活劇や、ユーモラスで笑えるシーンはとても見事なものです。ただそれは、冒頭の感動とは結びついていない。極論すれば、『感動作』としての『カールじいさんの空飛ぶ家』は、家が離陸するところで終了する短編映画でよかったのではないでしょうか。

ここがたぶん今のピクサーの限界、ピクサーが求められるものの呪縛なのかもしれません。動きの大きなアクションシーン。子どもの活躍。笑えるドタバタ。ユーモラスな動物たち。それは世間が思うアニメの『お約束』なのかもしれないし、ピクサーが築いてきた『型』なのかもしれない。

でも、そろそろもういいのでは?冒頭の回想シーンであそこまで『普通のもの』を感動的に描けるなら、もう普通の『ドラマ』でもいいのでは?ハラハラの冒険も悪役もしゃべる動物もないけれど、でも実写の映画に負けない、人間の俳優に負けない情感と感動を。それができるだけの十分すぎる実力はあるのだから。それこそが『次世代』のアニメーションになるはず。

#241

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コメント

確かに、二人が憧れていた冒険家が悪役として出てくるのは違和感ありましたね。
思い出に囚われていることに「目を覚ませ!現実を見ろ!」というためなのでしょうか。

確かに、あの冒頭のみごとな2人の思い出のシーンが素晴らしすぎて、後半はその素晴らしさからみると、肩すかしをくったよう...

でもでも、あの冒頭シーンと、「晴ときどきくもり」があまりに素晴らしかったのでもう、ずっと泣き通しで、ネガティブなところ、全然気になりませんでした!

投稿: vic | 2009/12/21 16:45

>VIC さん
コメントありがとうございます。

冒頭部分も、本編の冒険も。どちらも素晴らしかっただけに、そのギャップが残念だったのです。
あの冒頭の作風だけで『アニメ映画』が成立するには、まだまだ時間がかかりそうです…

投稿: starless | 2009/12/26 09:31

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