2012
お金を預けるには、安定が一番
その昔、ローランド・エメリッヒが撮った『デイ・アフター・トゥモロー』という映画があった。かなり大変なことが起こるパニック映画でありながら、肝心の『パニック』が感じられない。登場人物も自分勝手な行動で自ら危機に飛び込んでいきながら、なんなくそれを乗り越える。見た目の期待感とは裏腹に、見た目以外になにもない。そんな映画だった。
そして本作も、おんなじパニック映画である。そしてなにも変わっていない。映画史上空前ともいうべき壊しっぷりながらもパニック感ゼロ。登場人物のとんちんかんさもおんなじ。期待通りの期待できなさである。
ただ今回は、まったく期待していなかった分だけ『見れてしまう』要素もある。それはとんでもない量の『破壊シーン』である
とにかく壊しっぷりはすごい。予告編以上である。街が山が大陸が。みるみる壊れていくのである。しかし相変わらずパニック感ゼロ、緊張感ゼロ。地割れも噴火もなにもかも、常にぎりぎりで逃げ切ってしまう主人公たちの姿は、もはや笑いをさそう。ジェームズ・ボンドの方が、まだもうすこしリアルだ。これではまるで、遊園地の『ディザースター・ライド』である。
そしてみんなの行動も相変わらずおかしい。周りの迷惑顧みず、偶然に偶然を重ねながら使えるものは何でも使って家族のために奔走する主人公。方舟計画の首謀者のくせに突然「残る」と言い出して、ありがたい演説を始めてしまう大統領。ずっと計画の中心にいながら、土壇場で急に正義感に目覚める科学者。どれもこれも、納得しにくい人たちばかり。
しかしである。そんな相変わらずのダメ男エメリッヒは、なぜいつもいつも、こうした大きな予算の映画を任されるのだろう。そう考えて見ると、エメリッヒの映画は、実は一般的な『ハリウッド映画』のイメージにとても忠実に創られているのがわかる。
ジェットコースターのようなスリル満点(だけれどもジェットコースターのように安全な)アクションシーン。終盤での危機とそれを乗り越えるカタルシス。本作の主人公などは、自分でハッチを壊して危機を招いておきながら、自分で直して英雄的に盛り上がるという自作自演っぷりである。おっと、感動だってわすれちゃいない。要所要所に感動の家族の離別シーンを配置します(そのための、離別専用の登場人物が設定されている準備の良さ)。
そしてなによりもハッピーエンド。とても60億人が沈んでいるとは思えない美し夜明けを前にして、達成感をみなぎらせて佇む主人公たち。「水も引いてきましたよ」って、台風一過じゃないんだからさ。そしてエンドタイトルの爽やかなアメリカン・ロック。決して政治家が悪く描かれないところも、投資家のみなさんには好印象。
お金を入れてスイッチを押すと、投資金額に見合った見栄えで、典型的なハリウッド映画が出来上がる。バランスは悪いけれど取りあえずアクションと盛り上がりと感動とハッピーエンド。成功もないけれど失敗もない安定感。便利な大作っぽいハリウッド映画製造マシーン。それがローランド・エメリッヒなのかもしれない。
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コメント
こんにちは。
これは私も同感です。
これほどのパニック映画で、もの凄い人数の人が亡くなっているというのにパニック感が感じられず、おっしゃられているとおり、安全なアトラクションに乗っているかのような錯覚さえ感じられました。
このままUSJとかもっていけるじゃん!とか。(^^;
でも、崩壊シーンは素晴らしかったですね。
妙に細かいところでも人や車が落ちていたり、一度では到底全てを観ることができないくらい。DVDで再確認だ!
トラックバックありがとうございました。
こちらからもさせていただきました。
投稿: 白くじら | 2010/01/03 17:03
そうなんです、細かいんですよ。
観に行くつもりなかったのですが、予告編で電線が順番にパチパチスパークしながら切れていくのを観たら、「ちょっと観に行ってもいいかな…」と。
投稿: starless | 2010/01/03 20:28