パイレーツ・ロック
Stay With Me Baby
ハードロックもプログレも、もちろんパンクもない。まだロックがただの『ロック』だったころ。そんな時代の物語。
たっぷり描かれるロックのがさつさ、不真面目さ、下品さ。そしてそんな『らしさ』が実は冷静に演出されたものであること。ロッカーたちは丁寧に、真面目に、愛を持って、彼らがクールだと思う『らしさ』を身にまとっていること。そんなロックの本質的な姿がこの映画ではよく描かれている。
ロックは反体制・反権力の音楽だ。この映画は1967年、『海賊』が姿を消し、ロックが巨大な産業となる前夜に終わる。しかしこの映画は、産業となり体制に組み込まれた現代のロックを否定しない。現代のロックを、『海賊』の末裔として、同じ血が流れるものとして愛し、そしてその血脈に誇りを持っている。
この映画で繰り返し描かれる、ラジオに耳を傾ける英国の人々。毎日の単調な生活の中に。孤独に過ごす一人の夜に。愛する人との大切な時間に。ロックはいつも彼らとともにある。それは趣味や娯楽ではない。空気のように。皮膚のように。からだをめぐる血液のように。当たり前のようにともにある。
だからどんなに体制に組み込まれようが、体制を構成する人々の中に、反体制は存在し続ける。反骨精神は残り続ける。ロックが体制に組み込まれれば組み込まれるほど、ロックが体制を侵略するのだ。血の中にあるものは、決して飼い慣らされたりしないから。
この映画にたくさん出演している英国人俳優たち。きっと彼らは喜々として、いとも簡単にロッカー達を演じたに違いない。だって英国人だもの、もう血のなかに流れているから。かって七つの海を制覇した伝統国。今でも女王陛下が統治する由緒正しき王国。そして英国のロックは世界を制覇し、ロックとその反骨精神は英国人のなかに生き続けている。この映画の日本公開は、後援が在日英国大使館ですよ。
だから。英国より人口が多いにもかかわらずラジオステーションは少なく、ロックのみを流している局なんて皆無。そんなロックの根付いていない、そしてこれからも根付くことのない国の人間としては、英国はとてもうらやましくて、ずっとあこがれの国なのです。
でもこの映画を見ると、極東の島国にいる自分の近くにも、ずっと一緒にいて、見守ってくれている『神様』がいるのかも知れない、そんなふうに、ちょっとだけ思えるのです。
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