ダークナイト
お前は…本当に持っているのか?
ジョーカー
混乱を司るもの
狂気と恐怖、それこそが揺るぎない、人の本質だと信じるもの
デント
秩序を司るもの
理性と正義、それこそが揺るぎない、社会の本質だと信じるもの
しかし揺るぎないものなどはない、人は、社会は常に揺らいでいる。
本作を象徴する存在。それはジョーカーではなくトゥーフェイスだ。コインの裏表はそれぞれ単独では存在できない。裏と表に境界はない。正義と悪。秩序と混乱。白と黒。光と闇。それらは容易に入れ替わる。どちらが表でどちらが裏か。実は表も裏もないのだ。
悪を正す正義の力も、自らの欲望を満たすための暴力も、単にベクトルが違うだけ。どちらの暴力も、結果としてふるうものを蝕んでいく。
ジョーカーが、デントが、多くの問いを投げかける。右か左か、お前はどっちだ。自分が即答できない問題が多いのに驚く。「正しい」選択の難しさに。「正しい」ということの空虚さに。「絶対」ということの空しさに。
全編に渡って毒をまき散らし続けたジョーカーが、一度だけ毒気を抜かれた顔を見せた。楽しみにしていた花火が上がらなかったときだ。でも実際は、今この瞬間も、世界中で花火は上がっている。狂気は拡散している。
でも価値を持つものはある。表でも裏でもない、正邪でもない。他者との相対的な位置などどうでもいい。モラル、それは自己の中の絶対値。そしてそれを、ひとりぼっちで維持していく強靱さ。それらをあわせ持った、曇りひとつ無い純白と、漆黒の闇のみが持つ高潔さ。
ダークナイトとは、そういうことなのだ。
暴力的な印象が強い映画だけれど、目を覆うようなシーンは少ないし、そのような「見せ物」的な部分を売りにした映画ではない。あまりに重くて、あまりに悲痛で、あまりに美しい。アメコミなのにここまでできる。ここまでやってしまった監督も、やらせてあげたスタジオも、どちらもすごい。
#187
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