Sweet Rain 死神の精度
特別ではないけれど、大切なもの
原作は短編集。そこからの3編で構成された本作は、オムニバス映画風の趣を持つ。原作からの「間引き」かたは結構絶妙。原作で用意されていた「仕掛け」も、文章ではなく映像を使いながら、巧みに仕込まれていく。最初のうちは。最初のうちだけは。
原作の「仕掛け」は決して「どんでん返し」のようなものではない。一種のスパイス。ちょっとしたプレゼント。物語の本質ではないし、それが面白さの源ではない。ネタバレしたからといって、物語がつまらなくなるわけではない。でもだからといって、この映画はちょっとあからさま過ぎやしないだろうか。
ここまで観客に「確認」させるとなると、もはや伏線ではないし、最後の驚きもない。逆に押しつけがましく感じてしまう。観客全員がこの「仕掛け」を理解しながら観ることがそんなに重要だろうか。本作は「仕掛け」が感動を生む物語ではない。察した人が「なるほど」と思ってくれればいいのだ。ここまでひけらかすと、下品に感じてしまう。そもそもチラシの裏にあんなものを載せること自体、なにも分かっていない証拠だ。
ちょっとしたプレゼントは、思いもかけないからうれしいのであって、「あげるよ、あげるよ、さあ、あげるよ」と迫られると、気持ちが悪いのである。
また、ミュージックにこだわる死神を描きながらも、劇中の音楽がいただけないのも本作のマイナスだ。ユーモラスなシーンには、いかにもユーモラスな音楽。感動的なシーンには、いかにも感動的な音楽。どこかのサンプル集から引っ張り出してきたかのような音楽は脱力もの。音楽が流れない静寂のシーンが印象的なだけに、なんとももったいない。
でも構成の押しつけがましさと音楽の不味さを除けば、小説の魅力は十分に活かされている。いつもはセリフが棒読みだの、大根だのといわれる金城武も、逆に「死神」にはぴったり。はまり役である。また最後にすべてをかっさらっていくベテラン富司純子には、わかっていてもちょっと感動させられてしまう。
原作を楽しめた人にはお勧めの映画。でも読まずに観た人に「小説もこんなものか」と思われると、ちょっと悲しいかも。
#183
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