ノーカントリー
荒野を引き裂く、静かな死神
アカデミー賞では娯楽性はあまり重視されないようで、単純に「楽しい」だけのものは選ばれにくいようだ。しかし今回の受賞作である本作は、一見実にシンプルなサスペンス映画となっている。逃亡者とそれを追う殺し屋、それを追う保安官。三者の行き詰まる追跡劇が延々と続く。セリフは少なく、サントラができるのか心配になるほど音楽もない。ひたすらテンションの高い、しかし静かな展開が続く。
男達は皆強い。自らの掟、規律に忠実で他者とは群れず、頼らない。いわゆる「ハードボイルド」な男達だ。迷い無く自分の目標に突き進み、邪魔するものは排除する。ケガをしたって自分で治療。サバイバル能力も抜群だ。
懐かしい感じ。チャールズ・ブロンソンあたりが出ていてもおかしくないような。そんな昔の映画の、飾り気のないシンプルな面白さ。終盤に向けてじわじわと緊張感が高まっていく。
しかし、やはりアカデミー受賞作だ。そのまま普通のサスペンス映画としては終わってくれなかった。高まった緊張感は、爆発することなく、ぷっつりと途切れる。追跡劇の先頭を走る者の、あまりにあっけない死。サスペンスとしては完全崩壊である。
そして気がつく。あんなに強かった男達が、実は単なる迷える存在だったことを。掟を、規律を失ったから迷っているのではない。迷っていることに「気がつきたくない」から、掟や規律にすがっていただけ。迷っていることを知るのが怖かっただけ。それが掟でも規律でも、何かに対する帰属でも。たとえ暗闇の中の小さな灯りであっても。
#181
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