死神の精度/伊坂幸太郎
やることはやる、余計なことはやらない。それが仕事だ。
本作の主人公は死神である。そのまま死なせるか、死を見送るか。人間の死の7日前に現れて、調査員として最終報告を行うのが死神の仕事だ。人間の人生における最大の関心事であり、誰もが客観的に見つめることができない「死」。それを「仕事」という冷徹な視点で見つめる死神の感覚が本作の一番の面白さだろう。
数千年の長きにわたって人の死を見てきた者の冷たさ。時間の流れの中のほんの一瞬の人生なのに、それにしがみつき、あがき、こだわる人間のけなげさに対するやさしさ。冷たいけれど冷酷ではなく、やさしいけれども暖かくはない。そんな死神の視点を利用することで、主観ではなく客観によることで。人生に執着する人間の滑稽さと、そんな人間への愛おしさを、決して情緒に流されることなくさっぱりと描いている。
小説としての構成も巧みだ。連作短編集という体裁の本作だが、作品ごとに死神はいろいろなところに顔を出す。その場所によって「恋愛小説」であったり「ヤクザ小説」であったり、吹雪の山荘を舞台とした「推理小説」だったり。同様のモチーフの作品群でありながら、飽きさせることのない工夫がされている。連作短編ならではの「リンク」を埋め込むことで、全体のスケール感を出すことも忘れてはいない。
映画版の妙に「感動作品」的な予告編を見ると、どこまで本作の雰囲気が再現できているのか不安ではあるけれど、あの予告編を見て興味を持った方には、ぜひ先に小説版をお薦めしたいです。
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