黄金の羅針盤(ライラの冒険)/フィリップ・プルマン
ふたりでひとり、絶対はなれない
「ハリー・ポッター」や「ナルニア国物語」に続き映画化された本シリーズ。二番煎じ三番煎じと思われるかも知れないが、本作にはいくつものおもしろい特徴がある。
まず本作は「パラレルワールド」というSF的世界観をベースとしている点が独特だ。ライラのいる世界は私たちの世界ではなく、私たちの世界とよく似ているが決定的に異なる世界なのだ。そしてライラの世界の隣には、また似ているけれど異なる別の世界があり、本作以後のシリーズでは、ライラはこれらの世界を行き来することとなる。
またライラの世界においては、人間の心的・精神的・霊的な側面が「ダイモン」や「ダスト」などの物質として表現されている。シリーズを通してこれらの物質の謎が明かされていくことで、人間のあり方の本質が暴かれていくこととなるわけだ。このあたりの手法もSF色が強い。
また勧善懲悪的な物語設定が取られていないのも特色といえる。もちろんライラと敵対する勢力は存在する。でもそれが単純に「悪」として描かれていない。世界の中枢を支配する権力層、その権力基盤を破壊しようとする革新者、そしてライラが身を寄せる社会のアウトサイダーたち。それぞれの勢力はそれぞれの信念や思想に基づいて世界に向き合っており、それぞれに軋轢を生じながらもそれは善悪で割り切れるものではない。
そして主人公であるライラの人物設定も、これらの混沌とした世界観に見合ったユニークなものだ。粗暴で不敵で嘘つきで、でも生命力に満ちあふれていて。今までにない魅力を持ったキャラクターだ。
それ以外のキャラクター、大人たちや人でない者たちも魅力的に、そして時々はっとするほど情感豊かに描かれている。誇り高いクマとの固い友情と信頼、数百年を生きる魔女と限られた生命にしばられる人間との悲恋、そして「悪の化身」コールター夫人が最後にみせる涙。
予告編を見る限りは、映画版の出演者たちはかなり原作のイメージに忠実だ。とくにオーディションで選ばれたというライラ役の彼女の不敵な面構えが素晴らしい。
アメリカでは苦戦しているようだけれど、いい映画に仕上がっていますように。
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