魍魎の匣
似て非なる世界=パラレル・ワールド
昭和20年代が舞台の本作の制作にあたって、中国・上海で大々的なロケが行われている。「三丁目」のように緻密なCGで再現するよりは、いっそのこと安上がりなのかも知れない。しかしどんなに日本的小物で装飾しようともそこは中国。出来上がったその世界は、日本でも中国でもない異世界となっている。そこには当然眩暈坂もないし薔薇十字探偵社のビルもない。原作の再現度は低いといえるだろう。登場人物の再現度もしかり。饒舌な京極堂。元気な関口。顔が濃くてケンカが弱い榎木津。青木刑事より小柄で小粒な木場。みんな悪くはないけれど、何かが違う。
原作小説は推理小説の枠内にありながらも「妖怪小説」などと称される、ある意味ジャンルわけ不能な面白さを誇っている。そして映画化された本作もジャンルわけ不能な作品となった。
推理ものとしては推理らしいものがない。探偵は単に見えてしまうし、結局は犯人も関係者もみんな知り合いなだけだったりする(これは原作もそうだからしかたないですね)。
ホラーものとしての見せ場もない。バラバラ殺人を扱うだけに、パーツが描写されるシーンもあるが、それは観客にショックを与えることを意図していない。観ていて飛び上がるようなショッキングなシーンは一切無く、せいぜい多少不気味な程度である。
もちろん最後に爆発・崩壊シーンがあるからといってアクションものではない。というよりも、本作の半端なアクションシーンはまったくいただけない。誰も京極堂たちにそんなものを期待していないのに。
原作の最大の面白味である「うんちく」部分が省かれているから仕方ないものの、映画としての楽しみどころが難しい作品になってしまったかも知れない。そもそもあの長大な小説を原作とすることに無理があったような気もするけれど。読んでいない人に理解が及ぶ映画となっていたのか、少々心配でもある。
それでも。
みんなが京極堂の座敷にたむろして、お茶を飲みながら煎餅をかじるところ。榎木津がみえてしまうところ。最後にちょっと中禅寺夫人と関口夫人が顔を出すところ。これは原作のイメージ通りの元気な敦子が飛び回るところ。そして漆黒の羽織袴に身を包んだ、陰陽師姿の京極堂の姿を。
そんなものを実写で観てみたい人にとっては、ちょっと楽しめる映画であることは間違いない。
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