ブレイブ ワン
いつもの街が、見知らぬ街へ
そして、いつもの自分が、見知らぬ自分へ
ジョディ・フォスター自らが製作総指揮に名を連ねる、まさに彼女による彼女のための映画。その圧倒的な演技力は、犯罪被害者の怖れと痛みを痛烈に描き出す。何気ない生活があっというまに破壊され、混沌と理不尽で覆い尽くされるそのさまは、正視できないほどのリアリティーを持つ。
スチール写真などを見ると、さすがに年齢を感じさせる最近のジョディだが、スクリーンの中での強烈な存在感と、その凛とした美しさはまだまだ失われてはいない。やはり当代一の大女優である。
本作のテーマは「正義と悪」、復讐の是非である。
しかしこの観点からのみこの映画を見ると、そのラストはなんともご都合主義的、つじつま合わせ感が強いものに感じられてしまうだろう。「正義と悪」はあくまでも「法」というシステムがあってのもの。本作のもう一つの対立は「理性」と「感情」の対立でもあるのだ。
「理性」と「感情」は対立する要素でありながら、どちらも人間にとって重要なもの。そのどちらかのみでは人間として存在できない。それは本作の中で、本来相容れない存在であるエリカとマーサー刑事がお互いにひかれ合うことにより象徴されている。
何を犠牲にし、何を破壊しようとも自らの思いを遂げようとする感情。自らの信じる秩序を、自らの感情を殺してまで維持しようとする理性。その両者はつねにせめぎ合い、反発し合い、ひかれ合うのだ。
本作のラスト。感情は理性に癒され、理性は感情を愛した。それは単なる物語の終末ではない。相容れないものを胸に抱えて苦しむ人間たちの、ほんの一瞬だけの安らぎを、そのあまりにはかない切なさを、しっかり切り取っている。
#158
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