ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団
世界を闇が覆う。
「これの映画化はつらいな」小説を読んだ感想はこうだった。
7作中の5作目である本作は、ある種「間奏曲」的な印象があった。前作でのヴォルデモートの復活と次回作以降のシリーズ終局をつなぐ静かな「陰謀編」。長大な物語は、静かに世界に浸透する「悪」と、身を潜め力を蓄える「善」のせめぎ合いに終始する。小説で読むならともかく映画になったらどうだろう。
このシリーズは、アトラクション的なアクションシーンを要所要所に配置し、その合間をダイジェスト的に物語で繋いでいくことで膨大な量の原作をなんとか消化してきた。しかし本作では終盤の魔法戦争を除くとほとんど見栄えのするアクションシーンはない。そうすると地道に物語を語っていくしかないのである。
前作あたりからの流れなのだが、本作も映画化にあたっては「ハリーたちの視点」に絞った脚色をおこなっている。原作においては「ハリーたち」「不死鳥の騎士団」「魔法省」「デスイーター」などなど、複数の視点から絡み合った物語がつづられていくのだが、映画化に当たっては主人公グループのみを中心に物語が構成されている。そしてこの手法は、結果として前作に続いて成功しているといえるのではないだろうか。原作を読んでいない観客であってもすっきりと物語が理解でき、かといって省略しすぎて意味不明になるようなこともない。絶妙なさじ加減。
もちろん原作を読んでいない観客には意味が「捉えきれない」シーンもあるだろう。ただ「捉えきれない」ことが「理解できない」には繋がっていない。「わかった方がより楽しめるもの」がわからないだけなのだ。脚色・編集には相当な労力と注意が注ぎ込まれているのだろう。ほんとうに「真面目な」仕事ぶりだ。
そして地道に語られた物語、「アクション」ではなく「ドラマ」としての本作は、意外にも予想に反して素晴らしい出来だった。説明的になるわけでもなく間延びするわけでもなく、「ドラマ」としてしっかり楽しめるものになっていた。
これは俳優たちの頑張りが大きいのだろう。脇を固めるベテラン勢だけではなく、本作では子役たちの活躍が光っている。周りのベテラン勢に支えられ1作ごとに成長してきた子役たち。そしてその「成長」により身につけた力で、彼らは本作の完成度にしっかり貢献している。
「好循環」によるシリーズの成熟。これはシリーズものにとってある意味理想的な姿かも知れない。
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