パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド
その時がきた
おなじみの唄で始まるオープニング。しかし冒頭から明らかに今までとはテイストが違う。重い。なんとも重い。従来のコミカルさはかなり控えめ。かなりまじめに物語を語りかけてくる。冒険活劇的な面よりも登場人物のさまざまなからみが中心となっている。
しかしそのドラマティックな人間模様がうまく描けていたか、といえばどうだろうか。登場人物の想いが胸に迫ってくるシーンは思ったほど多くない。それにはいくつかの理由があるだろう。
まずはなんといっても詰め込みすぎ。前2作の登場人物に加えて、本作でも新たなキャラクターが登場。複雑な人物相関図を解きほぐすように、次から次へと重要な対話シーンが続く。必然的に時間が足りなくなる。3時間近い上映時間を持ってしても足りない。おのずと各シーンは説明的なものになり、感情を上手く描くところまではいかない。
さらに本作では、全ての登場人物がいわゆる「海賊の論理」で行動する。本心を見せずに自己本位に行動するのだ。前作まではジャックの「海賊の理論」に周りが振り回される展開が中心となっていた。そこが笑える部分であり、またそんなジャックがわずかに見せる「本心」の部分にハッとさせられたりした。
しかし本作では全員が自分勝手、お互いに振り回し合っている。複雑な人間関係を把握しながら、さらに各人の「本心」までを推測しなければならない。とても忙しい映画になってしまっている。
ある種、キャラクターのインフレ状態なのだ。動かすキャラクターと動かさないキャラクターのメリハリをもっとつけて、エピソードの量よりも質の向上を図ってほしかった。本作から登場した海賊王たちなど、かなりの上映時間を割いているわりには存在感がない。とくにサオ・フェン。準主役級の扱いながら、ドラマ的にはまったく不必要なキャラクターだ。ひとことで言えば、エリザベスを「キャプテン」にするためだけに必要な存在である。彼がエリザベスに執着する理由がはっきり描写できていないだけに、その印象はさらに強いものとなる。
そして本作の(そしてシリーズの)鍵となる、ジョーンズの悲恋の物語。これなども、たしかにオチはつけているけれども、なんとも中途半端。もっと丁寧に描けばかなり感動的なものとなったと思うのだけれども。女神を解き放った結果が巨大化とカニだけとは。彼女の想いはあんなものか。ジョーンズの最期が海に落っこちるだけとは。彼の魂を救って欲しかった。
ノリントン、総督そしてベケット。「そしてこうなりました」
ウイルとエリザベスの運命。残されたパズルのピースから推測すれば、ジャックのあの行動は必然。理論的なオチとすればあれが正解だろう。でもジャックと父の会話を思い出して欲しい。「大切なのは永遠の命じゃない。誇りと正気を保って生きることだ」 ウイルとエリザベスはあれを望んだのだろうか。あれは死よりひどい運命ではないのだろうか。ここまでに描かれてきたジョーンズの姿はなんだったのだろう。どうせならもう一踏ん張り、ウイルの呪いを解く奇策をジャックに期待したかったけれど・・・
そしてジャック。結局ジャックは狂言回しだった。周囲の運命を大きく変えたけれど彼だけはなにも変わらない。
それにしても、なんでもっとすっきりした終わり方にできなかったんだろう。深刻さなんて、海賊には似合わない。
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コメント
こんばんは。
キャラクターのインフレ状態、
海賊の論理、
ジャックは狂言回し……
この映画の特徴をズバリついた言葉の数々に感服です。
これからも素敵なレビューを期待しています。
投稿: えい | 2007/05/28 22:54
えいさん、いつもありがとうございます。
最近のシリーズものは、キャラクターがどんどん増えていくものが多いです。
これはひょっとすると昔と比べて上映時間の制約が少なくなっているせいかもしれませんね。
以前なら3時間の映画なんてほとんど許されませんから、こんなに大勢のキャラクターを出せなかったでしょう。
シネコンの普及により「上映時間が長ければスクリーン数を増やして対応すればいい」ということで、長時間映画も認められやすくなっているのでしょうか。
投稿: starless | 2007/05/29 19:54
好き嫌いある映画でしょうね。
ダメダメであるのは認めつつも、それを含めて最高に楽しんでしまいました。
映画というよりは、スクリーン上のテーマパークみたいな作品でした。
投稿: ノラネコ | 2007/05/30 02:04
ノラネコさん、コメントありがとうございます。
楽しんだことは楽しんだのですが、最高とまではいきませんでしたね。
>テーマパーク
結局私は「話」を求めちゃうんでしょうね、映画に。
投稿: starless | 2007/05/30 19:17
こんばんは。
ホント、レビューに書かれていることは至極同意いたします。
まずは詰め込みすぎでしたね。3なら何を出しても受けるとでも思ったのでしょうか。しかし実際にはシンガポール海賊も、伝説の海賊、どれもこれも消化不良を起こしてしまう役柄で、さらに主役級たちの行動まで…。
海賊たちの行動には、おっしゃるとおり『自分勝手』というのが強く感じられました。全員がそれをしてはもう笑いを取ることは難しいですね。前作まではジャックの行動に翻弄されていたのが面白かったのに。
ダルマの巨大化には私も愕然とした口ですが、あの渦までもが彼女の起こしたものだとすると、その中に落ちていったジョーンズの意味も活きてきそうですが…単なる偶然の渦だと目も当てられませんね。(^^;
トラックバックありがとうございました。
こちらからもさせていただきました。
投稿: 白くじら | 2007/05/30 23:47
こんばんは。
「3」はあらすじを聞くと、すごく楽しそうなんですけどね。
シリーズ全体で見ると、「2」のラストシーンを見て「次はなんか飛んでもないことになりそうだぞ」と思った瞬間が、一番気分が盛り上がりました。
「2」のもつ「次回作に期待を持たせる力」は、今思ってもすごかったと思います。
投稿: starless | 2007/05/31 21:14