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2006/12/02

007/カジノ・ロワイヤル(2006)

007 シリーズ第21作 2006年

【007】ダニエル・クレイグ
【 敵 】ル・シッフル(投資家)
【主な舞台】バハマ~モンテネグロ~ヴェニス 

「ジェームズ・ボンドが007になるまでの物語」

6代目ボンド、ダニエル・クレイグの初出演作である本作は、一見最近流行の「エピソード0もの」として製作されたように思える。しかしその舞台が60年代ではないことからもわかるように、これは私たちの知っている「ジェームズ・ボンド」の若かりし時代の物語ではない。

本作の内容を象徴的に表していたのがメインタイトル部分だろう。歴代のシリーズのメインタイトルバックは、シルエットで描かれたボンドと美女のたわむれが基本とされてきた。しかし本作は違う。本作のメインタイトルではボンドがひたすらに敵を殺しまくる。「暴力と死」これが本作の基調なのだ。

もちろんスパイ映画であるからには、これまでも多くの「暴力と死」が描かれてきた。しかし歴代シリーズの暴力描写は、いってみれば「60年代レベル」のままだった。シリーズ初期の、ある意味上品な描写レベル(もちろん当時としては過激だったのかも知れない)を基本として、それが40数年にわたって受け継がれてきたのだ。映画としてのリアリティを犠牲にするかわりに得た英国的な上品さがシリーズの味となっていた。

本作ではあらゆる暴力描写が、下品なまでのリアリティで描かれている。血を流すボンド。毒物で心臓停止になるボンド。全裸で拷問されるボンド。ここまでリアルな暴力にさらされ、また自身も暴力をふるったボンドはいなかった。「ファンタジーではなく、血の通ったリアルな存在としてのボンドを描く」という本作の目的は、強烈な「暴力と死」により果たされたのだ。

結局いままでの「ジェームズ・ボンド」は40年間動かない時間の中で生きてきたのだろう。古き良き時代の中で、「リアリティ」という名の下品な現実にまみれることなく。そして一気に40年時計を進めた本作においては、もはや「ジェームズ・ボンド」がスパイとして存在できる余地はなかったのだ。

そう、本作のボンドは「新ジェームズ・ボンド」であり、今までの「ジェームズ・ボンド」ではないのだ。新たに「ジェームズ・ボンド」を名乗り00要員となることとなった男の物語、それが本作である。ダニエル・クレイグであろうが別人であろうが、これ以降続けられるシリーズは未来に対して進んでいくものであり、決してかっての「ジェームズ・ボンド」の世界に戻ることはない。本作は「シリーズ第21作」ではなく「新シリーズ第1作」なのだ。

「ジェームズ・ボンド」を犠牲にして現代に生まれ落ちた「新ジェームズ・ボンド」の映画は、悔しいけれどいい出来だった。これなら今に生きるシリーズとしてやっていけるだろう。かっての「ジェームズ・ボンド」が失われてしまった残念さと、「新ジェームズ・ボンド」のたくましい旅立ちを目にした安堵。見終わってなんとも複雑な気持ちになった映画だった。

ようこそ「ジェームズ・ボンド」、そしてさようなら「ジェームズ・ボンド」

#116

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コメント

こんばんは。
すごくよく分かります、その気持ち。
あのオープニング。
女性が絡まないタイトルバックを観たとき、
なんとも複雑な気持ちになりました。

投稿: えい | 2006/12/02 19:21

この路線でこれだけ当たってしまうと、もうQは出てこないのかな、というところだけが残念です。
あ、でもなにげに車の中には便利な品々が用意されてましたね…。

投稿: rukkia | 2006/12/02 23:40

>えいさん

あのオープニング。今までと似ているようでいて、決定的に異なっていましたよね。本当は40年間に少しずつ変化するべきところを、この1作で一気に激変にさらされた感があります。


>RUKKIAさん

>車の中には便利な品々

私はMI6のものすごく手厚いオンラインサポートが印象的でした。医療サービスまであるとは!

投稿: starless | 2006/12/03 16:36

こんばんは!
TBとコメントを有難うございました♪
とっても良く纏めておありになって、うん、そうそうと思わず頷いてしまいました。
>ようこそ「ジェームズ・ボンド」、そしてさようなら「ジェームズ・ボンド」
この文章がすべて言い表してくれているようで、凄く私気に入りました~♪
そうなんですね、きっと。 今までのボンドを考えてはいけなかったんですね。。
これからもよろしくお願い致します(^^)/

投稿: マダムS | 2006/12/04 01:46

>マダムsさん
コメントありがとうございます。

これならきっと、初めて007を見る人でも楽しめるでしょう。
でも「バイオレンス=現代的」というアプローチが、殺伐とした時代を象徴しているようで、ちょっと考えてしまいますね。

>今までのボンドを考えてはいけなかったんですね

個人的には、はっきりと「新シリーズ」と銘打って欲しかったです。
なんかなし崩しにシリーズが打ち切られたみたいで、かなりさみしい気分です(涙)。

投稿: starless | 2006/12/04 21:06

TBどうもでした。
ロジャー・ムーア以来の路線を散々観て来たから、今までのボンドはもういいかなと思います。
新生ボンドの第一作として、十分及第点でした。

投稿: ノラネコ | 2006/12/13 02:04

>ノラネコさん コメントありがとうございます。

>今までのボンドはもういいかなと
まぁ、それはそうなんですけれどもねぇ。
でも、いざ無くなってしまうとさみしさひとしおなのです。

投稿: starless | 2006/12/13 21:08

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