トゥモロー・ワールド
2027年。約18年間、人類には子供が生まれていなかった。
「アズカバンの囚人」の監督として知られるアルフォンソ・キュアロンが手がけた近未来SF。2作目までの「魔法キラキラ」なハリー・ポッターを突如ダーク・ファンタジーに仕上げて喝采を浴びたキュアロン監督。本作では憂鬱になるほどダークでリアルな近未来が描かれている。
本作で描かれる20年後の世界は今以上に暴力が支配する世界。人間の野蛮さが山盛りに描かれ、その冷徹な暴力描写と相まって何ともやりきれない気分になる。50年じゃなくて20年というところがミソ。20年はすぐそこ。世界にも現在の痕跡がはっきり刻まれている。「人ごとではない」感がひしひしと伝わる。
本作で印象的なのはアクションシーンで多用されている「長回し」。今のことだからそれなりにトリックがあるのかも知れませんが、臨場感抜群であることは間違いなし。ただ臨場感ありすぎて手ぶれも多いため、ちょっと酔いました。ブレア・ウィッチほどじゃないけれど。
「子供が生まれない」というと、「少子化対策」が声高に叫ばれる現在の日本にはタイムリーなテーマかと思われるかも知れないが、本作のテーマは「少子化対策」などとは何の関係もない。そもそも「少子化」で困っているのは大人たちだ。自分たちの作り上げたシステム維持のために、なんとか必要な子供の数を工面しようとしているのが「少子化対策」である。
「少子化対策」という考えの源には「子供は生まれて当然」というおごりがある。「生みやすい環境作りさえしてやれば当然生まれるだろう」というわけだ。しかしそうではない。子供は「生まれて当然」ではないのだ。
テロリストや完全武装の兵士たちが、なぜ子供を見て涙し、ひざまずいて十字を切ったのか。それは生命の誕生がもっとも身近な「奇跡」だからだろう。「奇跡」を目にした人間はそれを与えてくれたものに感謝する。そして「与えられたもの」を慈しむ。
そんなある種の「敬虔さ」を失ったとき、「奇跡」も失われるのかも知れない。
#115
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