パイレーツ・オブ・カリビアン／デッドマンズ・チェスト

全米で記録的大ヒットとなっているシリーズ第２作、ついに日本登場。

現在第３作までの製作が発表されている本シリーズ。本作では前作の物語をふまえた上で物語が大きく動き出している。登場するおなじみのキャラクター達は前作より存在感を増して活躍しており、シリーズものとしては理想的な展開といえるだろう。

タイトルにもなっている宝箱の争奪戦という極々シンプルな内容でありながらも、２時間３０分という上映時間の長さを感じさせない息もつかせぬ連続活劇に仕上がっている。

敵に捕まった人や、海に流された人が都合良く都合のいい場所に行き着くなどリアリティーを無視したご都合主義的な展開も、物語をテンポ良く進め観客に続けざまに見せ場を提供するための便法だと思えば気にもならない。それほど本作の突進力は素晴らしいものがある。

中盤の「フライング・ダッチマン」のあたりは、全体的に魚介類満載で薄暗く絵的にもぱっとしないのだが、その前後に配されている島での冒険シーンは大きな見所。明るい陽光の下で繰り広げられる立体的なアクションシーンが素晴らしい。この島でのシーン（特に最初の島）はピーター・ジャクソンの「キング・コング」を連想させるシーンがあるかも知れない。しかしシリアスなストーリーにリアリティーのないアクションを入れた「キング・コング」よりも、コミカルなストーリーにリアリティーのないアクションを入れた本作の方がトータルな仕上がりは上だろう。「キング・コング」のアクションシーンは本来笑うところではないので笑いを堪えなければならなかったが、本作のアクションシーンは安心して笑える。

ところで本シリーズと「スター・ウォーズ」シリーズの類似点を指摘する向きもあるようだが、それはどうなのだろう。「ジャック・ウィル・エリザベス＝ハン・ルーク・レイア」という図式の様だが、そうであるならばパイレーツ１はハン・ソロが借金のカタにミレニアム・ファルコンをだまし取る話、パイレーツ２はハン・ソロがジャバ・ザ・ハットの取り立てから逃げ回る話、となってしまい、全然スカイウォーカーの物語は進まない。

「スター・ウォーズ」におけるハン・ソロは純然たる脇役（それがどんなに魅力的であったにしても）であったのと違い、本シリーズのジャックは純然たる主役である。それはここまでのストーリーが、「宝探し」などではなく全て彼の個人的な事情を中心に展開していることからも明らかだ。そうであるにもかかわらず、ジャックが「魅力的な脇役」に見えてしまう理由はジャックのキャラクター造形にある。

私にとって「冒険活劇」といえば「インディ・ジョーンズ」が理想像となるのだが、正直で正義感が強いインディと違ってジャックの思考は分かりにくい。正義なのか悪なのか、正直なのか嘘つきなのか、見るたびに印象の変わるカメレオンのようなキャラクターなのだ。そんな感情移入の難しいキャラクターであるゆえに、観客の分身となることを要求されがちな主役としての役目を十分に果たせていないのだろう。観客にとって思考の分かりやすいウィルの方が主役としての印象を与えてしまうのだ。

しかし物事が多様化し混沌とした現在においては、ジャックのような多面性を持つ主人公がいてもいいのだろう。それだけ「なにが正義か」が難しい世の中だということなのだ。そしてそんなカメレオンのようなキャラクターを演じるのがカメレオンのような俳優ジョニー・デップ。まさに「はまり役」である。

子供の頃「ＪＡＷＳ」や「スター・ウォーズ」を見て感じた映画の面白さ。それは圧倒的なものであり一生忘れ得ぬもの。深みがあろうがあるまいが、ひねりがあろうがあるまいが、そんなことをねじ伏せてしまう映画の面白さ。本作を見た小さな子供達の中からも、たくさんの映画好きが生まれるだろう。そして３０年前と同じ映画の面白さを今でも感じさせてくれる新作に出会えたことに感動し、感謝しています。

そんな本作の唯一の難点は、続きを見るのに来年まで待たなければならないことかもしれない。

パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト＠映画生活

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