ポセイドン
2006年製作
「ポセイドン・アドベンチャー」をウォルフガング・ペーターゼン監督がリメイク。
「オリジナルから人間ドラマを削ってスピーディーに仕上げた」
インタビューで語る監督の言葉は、なんともイヤな感じを与えた。
日本では「パニック映画」と呼ばれるこのジャンル。あちらでは「ディザースター(災害)・ムービー」と呼ばれるらしい。しかしこの手の映画の要はパニックに陥る人間たちのドラマであり、「災害」は設定であっても主役ではない。このあたりを取り違えると「デイ・アフター・トゥモロー」のような映画になってしまう。「人間ドラマ」が支えていたといっても過言ではないオリジナルから、そこを削ったら何が残るのだろうか。
結論からいえば、「削った」というのは監督がオリジナルとの違いを強調しただけで、本作にも「人間ドラマ」はちゃんと残っている。20分短くなった上映時間が示すようにかなり省略気味ではあるが、とりあえず「今死んだの誰?」というようなことはない。それなりに想像力をふくらませる必要もあるかもしれないが、キャラクターの心の動きも理解できる。
セリフの端々に現れるキャラクターの背景(妻に逃げられた市長、元潜水艦乗り、ボーイフレンドに逃げられた設計士などなど)から推測すれば、映画では語られていないキャラクター設定がかなりあるようだし、そこをもっと描けば良かったという気もする。しかしそうすることで監督がこだわる「スピード」が失われるのも事実。個人的には映画として必要なギリギリの「人間ドラマ」は残されていたと思える。
そして切りつめたオリジナルの長所のかわりに詰め込まれているのが、オリジナルが持ち得なかった迫力の映像表現だ。
メインタイトルでいきなり見せつけられるポセイドン号の威容。豪華できらびやかな船内。一転して破壊し尽くされるポセイドン号の地獄絵図。どれも素晴らしく、どれも恐ろしい。単純な映像の力だがオリジナルが持ち得なかったのも事実である。
また本作では「水」の恐ろしさもよく描かれている。オリジナルでは「転覆から沈没」という舞台設定の割には「水」の恐怖はあまり感じなかったが、本作では圧倒的な重量感で「水」が迫ってくる。まさに「水」との追いかけっこだ。ちょっと主要登場人物の潜水能力が高すぎるような気もするけれど。
結局ペーターゼン監督は、オリジナルを解体するような気持ちは毛頭無かったのだ。随所に見られるオリジナルへのオマージュともいえるシーンの数々や、今は亡きオリジナルの製作者の夫人を製作総指揮としていることからもそれは明らかだろう。往年の映画の持ち味である部分を切りつめてしまうかわりに、当時描くことのできなかった(そしてできることなら描きたかったはずの)要素を付け加えるとともに、現代的なスピード感も高める。プラスもマイナスもあるが、最近多いリメークものとしてはなかなかの成功例ではないだろうか。
本作を見ていて、ペーターゼン監督の前作「トロイ」が何故今ひとつ面白くなかったかの理由が分かった。トロイの大地は広すぎたし、ギリシャの英雄たちは綺麗すぎたのだ。狭苦しいところにひしめく、ずぶ濡れで油とススで汚れた主人公。そんな世界こそがペーターゼン監督の本領が発揮される場所なのだ。
「Uボート魂」健在なり。
#088
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コメント
TBありがとうございました。
>狭苦しいところにひしめく、ずぶ濡れで油とススで汚れた主人公。
まさにそれこそがペーターゼンの世界ですね。
投稿: えい | 2006/06/06 22:26
>えいさん
コメントありがとうございます。
>ペーターゼンの世界
俳優はとても大変そうです。
投稿: starless | 2006/06/07 20:16