ダイ・ハード
クリスマスパーティーが行われていた日系企業のハイテクビル。そこへ突然侵入したテロリスト集団はパーティー参加者たちを人質に取り、ビルを完全に制圧した。しかしテロリストたちは、一人の男の存在を見落としていた。
派手な爆発シーンこそあれ、予算の潤沢な大作ではなかったと思われる本作。基本的に一つのビルという閉鎖空間のみでの撮影であり、そのビルさえ20世紀フォックスの「フォックスプラザ」を使用するという節約ぶり。主演も当時はテレビドラマ中心に活動していた、ほぼ無名といって良いブルース・ウィリス。本作は「たいして期待されていなかった作品」だったのでしょう。
しかしジョン・マクティアナン監督により仕上げられた本作は、アクション映画の歴史に名を残す大傑作となりました。テロリストたちに政治的な背景もなく、主人公が悪役に説教するでもなく、ただひたすら両者の戦いのみを楽しむ。まるでスポーツ観戦のようなシンプルさスピーディーさが本作の大きな魅力となっています。
またそのシンプルなあらすじとは裏腹に、全編にたくさんの伏線が張り巡らされたきめ細やかな脚本もみごとです。最近では「伏線」というと「どんでん返し」と同義にとらえられがちですが、もちろん本作の伏線はそんな大がかりなものではありません。気付かなければそれで構わないけれど、気付いた人は思わずニヤリとしてしまう。そんな「おしゃれな伏線」の数々が映画の楽しみを増しています。
「飛行機嫌いを克服する方法」「大音量でカーステレオを聴くリムジンの運転手」「伏せて置かれた写真立て」「ホリーが社長から贈られた腕時計」「銃を抜けない警察官」などなどなど。映画が進むに従って、パチパチとパズルにピースをはめ込んでいくような気持ちの良さが感じられます。
本作をきっかけに大スターとなったブルース・ウィリス演じるジョン・マクレーンのキャラクター造形の魅力にも触れないわけにはいけません。全編ランニングシャツに裸足(後半は上半身裸)という情けない風体。口から出るのはぼやきと口汚いののしり言葉。まさに「おっさん」としかいいようのない彼が、ひょうひょうとテロリストと渡り合い、粉砕していく様はまさに痛快そのもの。「冴えないおっさん」と対比させるかのようにテロリスト側がハイテクで用意周到だったのも、痛快さの演出に効果的でした。アクションに偏りがちな本作に絶妙なユーモア感覚を加えているブルースの貢献は、かなり大きいのではないでしょうか。
本作の大ヒットを受けて、当然のように「ダイ・ハード」はシリーズ化されました。そしてマクレーンは単なる「おっさん」ではなく、一般的な「ヒーロー」に変化していきました。映画のスケールアップにもかかわらず、一作目の持っていた「マジック」が感じられなくなったのは、このあたりにも原因があるのかもしれません。
ブルースが「ダイ・ハード」成功のチャンスをしっかりものにして、スターとしての基盤をがっちり築いたのはみなさんご承知の通り。一方でマクティアナン監督はチャンスを生かせたとは言い難いのが残念ですね。まさか「まぐれ」だったとは思えないのですが・・・
#090
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コメント
こんばんは、はじめまして。
もう何度も観ている作品ですが、当時は何かの上映作品の前の予告編を観て「また派手なアクションものが」「主人公がおっちゃんだ」などと言っていたものです。(^^;
ところがふたをあけてびっくり、おっしゃるとおりいたるところに伏線が仕込まれていて、アクションのみならず楽しめる作品に仕上がっていました。
にしてもあのランニングが真っ赤に染まったり、足のガラスは痛かったですね。(>_<)
トラックバックさせていただきます。
あと「ちゃん吉」くんにもメール。(^^)/
投稿: 白くじら | 2006/06/26 01:37
コメントありがとうございます。
なんだかんだと「何度も観てしまう」映画ですね。
何故選んだのかはわからないのですが、公開当時に劇場に観に行った記憶があります。
個人的には結構「衝撃の出会い」でしたね。
投稿: starless | 2006/06/26 19:25