ダ・ヴィンチ・コード
ダン・ブラウンの世界的ベストセラー小説を、監督ロン・ハワード、主演トム・ハンクスで映画化。
原作小説を読んでの第一印象は「軽い」だった。「人類史上最大の謎」と称されているそのテーマから、重厚で読み応えのある小説を期待していた私にとっては、ちょっと肩すかしをくらったような感覚だった。もちろんつまらなかったわけではない。というよりもかなり面白い小説だった。しかしその面白さは、シドニー・シェルダンの小説を読むような面白さだ。重さよりもスピードを重視した作風を、そのテーマが興味深かっただけに非常にもったいなく思った。
しかし一方で「とても楽に映画化できそうな小説だな」との印象も受けた。結構簡単に解けてしまう謎とご都合主義的なピンチからの脱出が繰り返されるそのストーリーは、指輪物語やハリー・ポッターのように取捨選択に頭を悩ませる必要もなく、そのまま映画化するだけで結構テンポのいいサスペンスになりそうだった。
そんな「ダ・ヴィンチ・コード」の映画はどうだったか。
展開の軽さは原作のまま。しかしそれは映画の責任ではない。印象的だったのはその映像の重厚さだ。ルーブル美術館に始まって、フランスやイギリスの街並みや教会等ロケ地の美しさ、本物の持つ重みが素晴らしい。潤沢な製作費を使えるハリウッド大作ならではの贅沢さだろう。
また随所に挟まれる「うんちく」部分で使われた「歴史の再現映像」の出来映えも見事だった。短い時間しか使われないカットなのに一切手が抜かれていない。映画のテンポを落としかねない「うんちくシーン」を見せ場に転換しているのが素晴らしい。その部分には語り手のセリフがかぶさるため、字幕を読まなければならないのが残念なほど。日本語吹き替え版でゆっくり映像を楽しんでもよかったかもしれない。
ストーリー展開は原作が持つ「軽さ」を生かし、そこへ原作が持ち得なかった「重厚さ」を映画の一番の武器である「映像」で補った。そのテーマにふさわしい「風格」を身につけた映画版「ダ・ヴィンチ・コード」は、原作以上に「ダ・ヴィンチ・コード」になっていたように思える。
一つ苦言を呈するとすれば「聖杯」の扱いだろうか。映画での「聖杯」は「キリストの神性」を左右する存在として描かれていた。しかし原作では、バチカンを中心としたキリスト教男性社会が、その支配を確立するため邪教として切り捨てた「女性の神性」の象徴としても「聖杯」を位置づけていたにも関わらず、そちらの視点がほとんど取り上げられていなかった。男性の支配のために闇に葬られた女神たちの無念さ、組織的に女性への偏見が生み出される恐ろしさ。個人的には原作で一番印象的な部分だっただけに残念だった。
バチカンは敵に回せても、男性社会を敵に回すことはできなかったということか。まぁハリウッド自身が男性社会だからしかたないかな。
#086
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コメント
「オーメン」のコメントを書きに来て、この記事に気がつきました。うんうんと納得しながら読みました。
私も原作を読んでから映画を見ました。そして、「うんちく」部分を映像で見られてことに満足したのですが、すべてあっという間に過ぎていった点が、とても残念でした。
聖杯の扱いについても同感です。
自分のブログではまだこの映画の感想を記事にしていないのですが、昨年の夏休みに、ロスリン教会を見たくなり、イギリスに行こうと思っていたこともあり、結局、スコットランドまで足を伸ばして見てきました。誰も気づいていないと思いますが、自分のブログの右上にその時の記念写真があります。
投稿: ちんとん@ホームビデオシアター | 2007/01/31 21:05
やっぱり歴史ミステリーは、映画で見るよりも小説でじっくり読む方が楽しいです。特にこの作品の場合は「うんちく」が面白さの根幹ですから。
でも雰囲気のいい映画でした。ゴージャスな作りが作品のムードにピッタリだったのではないでしょうか。
投稿: starless | 2007/02/03 00:48