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2006/05/03

エターナル・サンシャイン

Es ラクーナ社。そこでは記憶の中から任意の部分を消去してくれる。たとえば思い出したくない辛い記憶。そう、失恋のような。

本作のすごいところは、ものすごく複雑なテクニックが駆使されているにもかかわらず、一見ごくごく普通のラヴストーリーにしか見えないことかも知れない。音楽もそうだが、本当にテクニカルなものはテクニカルに感じないのだ。作品のあらゆるシーンに無駄が無く、髪の毛や車のキズといった伏線の小道具選びもすばらしい。さすがアカデミー脚本賞受賞作である。

記憶の消去とそれにまつわるトラブルを描いた本作はドタバタSFとでも行った内容。特に後半の記憶消去作業に入ってからはその傾向が強いが、そんなコミカルな展開の中に感動させる要素を織り込んでいくにあたっては、脚本だけでなく主演の2人の功績も大きかったのかもしれない。ジム・キャリーの映画は始めて見たが、彼の人気ぶりが納得できる素晴らしい演技だった。

本作ではいくつかの教訓が語られているように思える。

ひとつは「痛み」への対処方法である
ラクーナ社で提供されるサービス。痛みを消去された本人が楽になることは間違いないが、周囲の人の記憶までが消去されているわけではない。本作でも最後には消去した記憶の内容が明らかになり、その記憶は当時のままの痛みを引き起こす。隠していてもキズはふさがらず、また当時のまま血を流し出すのである。「時が全てを解決する」やはり昔ながらの方法で、痛みとつきあいながらキズがふさがり風化していくのを待つのがよさそうである。

もう一つは「離別」についてだ。
記憶が消去される過程で自分の本当の気持ちに気づいた二人は、消えゆく記憶の中で再会を誓う。そして再会を果たした二人は、もう一度あらためて痛みに向かいあうこととなった。しかし誰もが二人のような幸運に恵まれるわけではない。離別の前に納得がいくまで痛みと向き合うことだ。人と人との出会いは偶然に司られている。彼らのように「もう一度」のチャンスに恵まれるとは限らないのだから。

冒頭の再会シーンが感じさせるのは、そんな「出会い」の尊さだ。

エターナル・サンシャイン@映画生活

#080

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コメント

楽しい中に、切なさや教訓が織り込まれていて、見応えのある作品でした。
でも一緒に観た主人には難解すぎたようで、イマイチ理解しきれていなかったようです。(汗)

チャーリー・カウフマンの脚本が見事ですね。
記憶が曖昧なのですが(さすが”小鳥頭”)、カウフマンがレストランで食事しているときに、隣のテーブルの客が「嫌な思い出を記憶から消せればいいのに」と話しているのを聞きつけて、「記憶を消す」というアイディアを思いつき、そこからどんどん話が膨らんでいったとか。

奇妙奇天烈ですが、カウフマン脚本の「マルコヴィッチの穴」も個人的にはオススメです。
ジョン・マルコヴィッチが本人役で登場し、キャメロン・ディアスがほぼスッピンで頑張っています。
これを観るだけでも価値があると思うのは私だけ?

投稿: つっきー | 2006/05/21 04:04

「記憶を消す」というアイディアはよくあるのかも知れませんが、それをラヴストーリーに持ち込んだのがすごいと思いましたね。

>「マルコヴィッチの穴」

ちょうど来月再発になるようですね。
見てみることとしましょう。

投稿: starless | 2006/05/22 20:17

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