シンデレラマン
大恐慌時代のアメリカ。ケガがもとでリングから去る事となってしまったボクサー、ジム・ブラドック。日雇いの仕事にもあぶれがちで、家族を養うのに四苦八苦する毎日。そんな彼に、思わぬチャンスが巡ってくる。
あらすじは誰が読んでも「ロッキー」そのもの。違いはこちらが実話をベースにしているということだけ。しかし本作のブラドックをロッキーとは全く異なる人物像に作り上げ、異なる質感のドラマに描き上げているのは流石です。
独身のロッキーと妻子持ちのブラドック。この違いが一番大きいでしょうか。試合以外の事は何も考えなくてよいロッキーと、一家の大黒柱として存在し続けなくてはいけないブラドック。攻めるだけでよいロッキーと守ることが大事なブラドック。守りを考える必要があるだけ、戦いは困難になります。
街の荒くれ者、ちんぴらであるロッキーと違って、父であるブラドックは至極常識人です。妻子に声を荒げることもなく、ケンカだってしません。ブラドックに扮するのはラッセル・クロウ。海外ニュースにもなるほどケンカっぱやく、プライベートではかなり粗暴そうなご本人ですが、映画の中のブラドックは「いい人」そのもの。やはり名優の演技とはすごいのですね。
そんな「いい人」ブラドックが主人公ですから、本作も試合のスリルよりも家族の暮らしを描く部分が中心になっています。やはり家族の貧困の描写が(子役がみんなかわいいこともあって)見ていてつらいですね。試合に勝ったことよりも、ファイトマネーがもらえたことの方に安堵感を感じる映画です。
最後は「試合で2人殺した」チャンピオン、マックス・ベアとの試合です。試合前の家族の緊張が痛いほど伝わってきます。勝つことよりも生きて帰ることを願いながら試合を見るボクシング映画というのも記憶にありません。実力差のあるチャンピオンとの戦い、というのも「ロッキー」を同様です。しかし最後まで戦うことだけを考えていたロッキーと違って、ブラドックは試合の「後」を考えなければいけません。そんなどこか「醒めた」ブラドックを演じたラッセル・クロウが素晴らしかったです。
家族にも周囲にも、かたき役のマックス・ベアでさえ、悪い人が一人も出てこないこの映画。そんな善良で静かな映画なのに、家族の愛情も試合のスリルも、友情もスポーツマンシップも、さまざまな要素がしっかり描かれている。
地味で意外性もないけれど、いい映画でした。
#079
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