グラディエーター
リドリー・スコット監督、ラッセル・クロウ主演の歴史スペクタクル。
ローマ帝国軍の英雄である将軍マキシマスは、皇位継承にからむ陰謀に巻き込まれる。妻子を殺害され、自らは奴隷となってしまったマキシマスは、彼を罠にはめた新皇帝コモデゥスに復讐を誓い、剣闘士(グラディエーター)として名をあげることで、コモデゥスに接近することを試みる。
ここ数年歴史物の大作が続いていますが、それは本作の成功の影響が大きいでしょう。アカデミー賞では作品賞・主演男優賞を含む5部門を受賞。全米興行収入でも2億ドル近い大ヒットとなりました。
「歴史物」といいますと、歴史に知識や興味のないものにとっては、いまひとつ判りにくく取っつきにくい印象があります。本作が他の歴史物と大きく異なるのは、映画を楽しむ上で歴史についての基礎知識が一切必要とされないことでしょう。ご覧になった方は判ると思いますが、マキシマスのコモデゥスに対する復讐というシンプルな構成のこの映画を楽しむ上では、舞台であるローマ帝国がどんなところかなどという知識は一切関係がないのです。
「そもそも歴史物を作るつもりはなかった。いま古代ローマ人のドラマなんか見ても退屈なだけでしょ?」 本作のDVDに収録されているメイキングを見てみると、脚本家のこのようなコメントがあります。「復讐」をテーマとした普遍的なドラマを、歴史上の舞台設定を使って描いたのが本作だということなのです。
つまり本作は、多かれ少なかれ史実に基づいている「歴史物」の映画とは全く異なる発想で作られており、厳密には「歴史物」ではない映画なのでしょう。リアリティーや重みなど史実と関連を持たないことで失われるものもあるでしょうが、自由な発想でドラマを描けるなど、史実の拘束から逃れることで得るものも多いでしょう。プラスとマイナスどちらが多かったかは、本作の成功が物語っているのではないでしょうか。
全てを失った孤独な英雄マキシマスと、全てを手に入れた孤独な皇帝コモデゥス。2人の孤独な男の闘いの中で苦悩するコモデゥスの姉ルッシラ。物語の中心となるこの3人を演じる俳優たちの力に支えられ、シンプルな構成でありながらも3時間近い上映時間を飽きさせることはありません。
また巨大なセットとCGを組み合わせて再現したローマの町並みも見事です。若干きれいすぎるきらいもありますが、衣装や武器なども含めた美術も本作の見所の一つでしょう。
コロシアムでの剣闘シーンも素晴らしい出来です。寄せ集めの剣闘士集団が、マキシマスの統率のもと、戦車に乗ったローマ正規軍を撃ち破るところなどは素直に感動します。ラッセル・クロウは渋いおやじを演じさせたら、今世界一かもしれませんね。
この映画の欠点は、剣闘シーンがリアルすぎる事でしょうか。当時のいかにも痛そうな武器と相まって、流血系の苦手な人にはちょっと辛いかもしれません。この点さえなければ誰にでもお勧めできる映画だと思うのですが。
「歴史を描く」のではなく「歴史で描く」。そんな発想の転換から生まれた面白い映画でした。
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コメント
これはまだ1回しか観たことがないのですが、復讐のために一介の闘技者からコロシアムに出場する成長型(実際にはすでに最初から強いのですが)のストーリーだったので面白かったです。
コロシアムでの剣闘シーンなどは怖くていい感じ、手に汗を握りました。
でもそんな中で苦悩する男たちの演出も良かったです。私はどうしてもコロシアムの戦いに心を奪われてしまいましたが(笑)。
投稿: ぽこ | 2005/10/01 10:16
ぽこさん、コメントありがとうございます。
ハラハラしつつも、あれだけマキシマスが強いと結構安心して観れたりもしますね。
ラッセル・クロウの映画で「マスター・アンド・コマンダー」という海戦の映画があります。帆船時代の海戦ですから最後は白兵戦になるのですが、クロウ扮する艦長が自らサーベルを持って、ばったばったと敵を切りまくるのをみて「相変わらず強いなぁ」と笑ってしまいました。
さすがに「シンデレラ・マン」では、そこまで強そうではありませんが。
投稿: starless | 2005/10/01 23:28
>「歴史を描く」のではなく「歴史で描く」。そんな発想の転換から生まれた面白い映画でした。
おお~、なるほど、と思いました。
今度見るときは、また違った視点で見ることが
できそうです。
投稿: くるっぱー | 2005/10/12 05:44
>くるっぱーさん
コメントありがとうございます。
舞台がどの時代でもよかったのなら、なにもこんな、再現にお金のかかりそうな時代でなくてもよかったと思うのですが。
まぁ、ゴージャスな映像もヒットの一因になったかもしれませんけれど。
投稿: starless | 2005/10/12 22:46