« ボーン・アイデンティティー | トップページ | ドーン・オブ・ザ・デッド »

2005/07/12

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊

ghost 1995年公開のSFアニメーション。

西暦2029年、公安9課の「攻殻機動隊」と天才的ハッカー「人形使い」の戦いを描く。

内外で非常に評判の高いアニメでありながら、その一方で「予備知識がなければ理解不能」「ストーリーが難解」など、「いちげんさんお断り」的なイメージで語られる本作。

果たして、攻殻初心者の私には楽しめるのであろうか?

評判通り、本編が始まるとともに怒濤のような専門用語の洪水。たしかに10年前にはついていくのが大変だったでしょう。しかし現在は2005年、テレビのニュースでも、ネットワーク犯罪が取り上げられる時代。ネットワーク、コンピューターウィルス、ファイアーウォール、ハッキング等の言葉がある程度理解できる人であれば、予備知識がなくても「理解不能」という程のことはないと思います。時代が追いついたのでしょうね。10年前の「マニアックな予備知識」は、現在の常識になりつつあるのかもしれません。

ストーリーの「難解さ」についてはどうでしょう。

本作の時代には、程度の差こそあれ、人間は「義体」とよばれる人工身体を身につけることが一般化しており、主人公の素子などは脳以外は全てが義体化しています。こうなると生身の身体の有無を「人間」であることの基準とすることができなくなってしまいます。そして記憶や感情などを情報として脳内に持っているかどうか(この情報を「ゴースト」と呼んでいます)を人間であることの基準としているのです。

つまり、人間をハードウェア(心臓があって、息をしていて等)として認識するのではなく、ソフトウェアとして認識するようになっているわけです。

そこに現れたのが、人間のゴーストを改変し、操る能力を持った「人形使い」です。彼の出現で素子らのアイデンティティーは揺らぎます。人間であることの拠り所であった「ゴースト」が人為的に改変されたり、植え付けられたものであったら、果たして自分は人間と言えるのであろうか。さらには脳さえも捨てて、ゴーストを外部メモリーやネットワーク上に保存した場合、それは「人間」といえるのか。人間の「魂」にあたるものに「ゴースト(幽霊)」という名が与えられているように、人間の本質とは、かくもあいまいなものなのか。

「人間とは何なのか」これが本作のストーリーの重要テーマとなるのでしょう。このあたりが「哲学的で難解」と評される原因なのでしょうね。

でもこの命題は、哲学者でなくても誰もが一度は(そして何度も)考えることではないでしょうか。無から現れ、数十年のちにまた無に帰る。いったい人間(自分)とは何なのか。何のために生まれ、生き、死んでいくのか。誰もが考えるけれど、誰も(どんな偉大な哲学者であっても)答えを出せない、そんな人間にとっての「最大の難問」をテーマに据えたことが、本作の「難解さ」につながっているような気がします。

ある意味人間にとって向き合いたくない命題ですからね。自分の存在する意味を見出すのって困難ですから。

もうひとつ、本作を「難解」にしている理由がありそうです。

ある程度の長さをもつ原作を映画化する場合にはいくつかのパターンがあると思われます。

1)全体をダイジェスト版的に映画化する  2)冒頭部分を映画化する  3)特定のエピソードだけを映画化する  4)オリジナルなエピソードで映画化する

本作の原作コミックは未読であるため以下は推測となってしまいますが、たぶん本作は 3) のパターンではないかと思うのです。そして本エピソードは、全体の中でもターニング・ポイントであるような重要エピソードのような気がするのです。

つまり、何の背景説明もなくいきなり重要エピソードを見せられたために、見る側が混乱するんじゃないですかねぇ。スター・ウォーズをエピソード3から映画化するみたいに。

予備知識なしに見たわりには、非常にSF的で楽しめた映画だったと思います。やはり魅力的な世界観を提示してくれるSFって楽しいですよね。妙に上映時間が短かったので、もう少し「警察ドラマ」的なエピソードでみんなの活躍シーンを見せてくれても良かったと思いますが。

あと、監督がガン・マニアなのか、銃器の描写がよかったですね。かっこいい武器が目白押しでした。

#027

|

« ボーン・アイデンティティー | トップページ | ドーン・オブ・ザ・デッド »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

いや~、素晴らしいです。
私が初めて観たときに理解した内容の数倍上を突っ走っておいでです。
確かにネットが身近になり、専門用語が理解しやすい環境にあることも助けになるとは思いますが、押井監督の哲学にちゃんとついていってらっしゃるのはスゴイと思います。

押井監督はこの映画でまさに「人間の定義」を描きたかったのだろうと思います。
義体化が進んでいるこの時代、体が生身であることにたいして意味はなく、むしろ経験や思い出、記憶といった「ゴースト」に自分が自分であるためのアイデンティティーを求めなくてはなりません。

素子は全身が義体であり、脳と精髄の一部がオリジナルで残っているだけだったため、自分のゴーストにすら懐疑的でした。
これは続編の『イノセンス』に登場するバトーのセリフですが、「俺は自分のゴーストを信じている」、つまり信じられるか、信じられないか、これくらいのことで人間のアイデンティティーは揺らぐものだということを訴えたかったのかもしれません。

ちなみに「ゴースト・ハック」はその人のアイデンティティーを奪う行為なので、”殺人”と同義にとらえられています。

原作のコミック(全1巻)との比較ですが、ちょっと難しいのですが、1)と3)のミックスというのが一番妥当な答えだと思われます。

映画のところどころに原作のシーンが登場しますが、設定だけを借りて内容は変わっています。
そして結末はコミックの結末を少しアレンジしたものになっています。
コミックは映画版やTV版と違って、もう少しコメディタッチです。こんなに深刻なストーリーではなく全体的に明るいイメージです。

ついでに「ゴースト」というものへの解釈をTVアニメ版ではより深めています。
というのも、タチコマというAI自立思考型戦車が登場するのですが(愛くるしい!)、彼らがもっとも憧れているのが「ゴースト」なのです。
ゆえに観る側はタチコマの目線で「ゴースト」とは何ぞや?を理解することができます。

さらについでですが、starlessさんが希望なさっている「警察ドラマ」を目指したのが、TVアニメ版です。
ちょっと厭世的な9課とは違い、自分が信じる正義と戦う9課の熱い活躍が楽しめます。
もちろん、銃器類や兵器類の描き込みもより凝っています。

思い切って、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」を大人買いしませんか?(笑)
実は第1シーズンの中の「笑い男」事件だけをぎゅっと濃縮して編集した『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』というDVDが9/23に発売されます。
が、ぜひstarlessさんにはダイジェスト版ではなく、全26話を観てもらいたい・・・。勝手にそう思っています。(←洗脳を始めました)

投稿: つっきー | 2005/07/17 22:55

> つっきーさん
コメントありがとうございます。
原作は1巻しかないのですか。連載は1989年からということなので、いわゆる「サイバー・パンク」の流れを汲むものなのかもしれませんね。私はウィリアム・ギブスンの「ニュー・ロマンサー」しか読んだことはありませんが、「攻殻」も「ニュー~」同様ものすごく時代を先取りした内容だと思います。
ちょっと哲学的で難解で斬新な世界観といわれる「マトリックス」が、いかに借り物で作り上げられているのかがよくわかります。
それにしても当時の読者はこれらを理解できたのでしょうかねぇ。

> 「人間の定義」

まだ「脳死」という概念のなかった時代の人から見れば、現代も確実に「命の定義」は変わってますしね。やがて「脳が機能していても、脳内の情報がバックアップされることなく消滅した場合は死んだことになる」なんて日が来ても不思議ではありません。
何をもって「死」とするかが変われば、それにともなって「人間の定義」も変わってしまいますしね。科学の進歩は人間のあり方をややこしいものにしてしまいますね。

> タチコマとゴースト

ゴーストが情報であるならば、人為的に作成してタチコマにインストールすることはできないものですかねぇ。人間の脳がどれくらいの容量があるのかわかりませんが、20年分くらいなら何とかなりそうですが。あ、でも戦車だから家族とかいないし、そもそも製造後の記録なら当然に記憶されてますよね。ということは、タチコマが憧れるのは、記憶というよりも「家族との思いで」とかそっちになるのかな。

> STAND ALONE COMPLEX

レンタル屋さんの棚にずらりとならんでいますね、これ。とりあえず次は「イノセンス」でも見てみましょうかねぇ。しかし、映画版やらテレビ版を大量発生させるパワーを持った1巻だけのコミックってなんか凄いですね。

投稿: starless | 2005/07/18 22:50

タチコマについてちょっと補足させてもらいますね。

タチコマは「ゴースト」を決してデータとして残せない、復元できない、自分だけのアイデンティティとして憧れています。
デジタルで思考するAIが一生懸命、人間のアナログ的思考に挑戦する姿はとても微笑ましいです。

そして「死」というものに憧れています。
タチコマたちが経験して得たデータはデジタルデータとして保存もききますし、新しい筐体に移し変えれば復元も可能です。
つまり事実上、「死ぬ」ことができないのです。

そんな彼らが好奇心旺盛に人間の「死の概念」や「神や信仰」などについて議論するところなどは、観ていてはっとさせられる会話の連続です。

まあ、それ以上にタチコマってすごくプリティなんですけど。(笑)

投稿: つっきー | 2005/07/22 06:06

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104162/4939653

この記事へのトラックバック一覧です: GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊:

« ボーン・アイデンティティー | トップページ | ドーン・オブ・ザ・デッド »