アビス/完全版
ジェームズ・キャメロン監督の海洋SF。沈没したアメリカの原子力潜水艦救出のために、SEAL(アメリカ海軍特殊部隊)と付近で作業中だった海底油田採掘チームが合同で現場に向かう。潜水艦乗員の死亡が確認されたのち、潜水艦の機密がソ連に漏れることをおそれた米軍は、潜水艦に搭載されていた核弾頭を使用して艦を破壊することに。核の使用に反対する採掘チームとSEALの間に緊張が高まる中、嵐により彼らの乗った海中基地は孤立。そのとき海溝の中から謎の生命体(異星人)が現れる。
この手の映画だと、異星人と人間たちとの間の関わり(多くは争い)などがテーマとなることが多いのですが、この映画で主に描かれるのは人間同士の争い。異星人はあくまでも傍観者なのです。この点が異星人との遭遇を描いた他の多くの映画とこの映画が決定的に異なっている点ではないでしょうか。
ではこの映画で異星人の果たす役割は何か。それはおろかな人類に対して制裁を加える超越者としての役割です。
「ほっといてくれ。あんたたちに制裁を加える権利はないだろう」。物語の終盤、海溝の底で異星人と対峙した主人公バッドは、大津波で人類を攻撃しようとする彼らにそう訴えかけます。しかし、彼らが映し出す人類のたどってきた醜い戦いの歴史を見せられると、彼は言葉を失います。人類は言い訳できるような立場じゃないわけです。
このまま人類の大部分は津波に飲まれ、文明を失った人類はまた進化の道をたどり直す、といいた終わり方でもよかったかなと思いますが、捨て身で海溝まで来たバッドの勇気に免じて、異星人は人類を許してくれます。キャメロン監督、やさしいですね。あのくらいで人類が懲りたかどうかはわかりませんが。
バッドが海溝に沈んでいくシーンを見て、何となく「2001年宇宙の旅」を思い出しました。このまま音声もセリフもないまま、バッドは海溝の底で異星人と遭遇し、スターチャイルドならぬウォーターチャイルドになって彼らとともに過ごすのかな、などど想像してしまいました(結局、無事に帰してもらえるのですが、キャメロン監督やさしい)。
海底基地が孤立して酸素にも事欠いているわりにはあまり緊迫感が感じられなかったこと、海中シーンが多い(ほとんど)のためスケール感にとぼしいこと、あまり出てこない異星人がいざ出てくると拍子抜けな事等、映画としてみると難点もあるでしょう。でもこの映画、人間ドラマとしてみるととてもよかったと思います。美男も美女もでていませんが、みんないい役者さん揃いです。
一般的には「失敗作」とされているようですが、悪くないですよ。
でも海中シーンは重苦しくて息が詰まります。泳ぐの嫌いだから、あんなところ行くのはやだなぁ。
#021
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コメント
えぇっ、失敗作なんですか?
私の中ではキャメロン作品のベスト1を争う位置付けなんですが・・・。(汗)
えぇっ、美男美女が出てないんですか?
エド・ハリスやマイケル・ビーンは私のストライク・ゾーンど真ん中なんですが・・・。メアリー・エリザベス・マストラントニオはまぁ、その、なんですが。(苦笑)
バッドが片道切符であることを知りながら、核のスイッチを切りに行くシーン、リンジーとメッセージのやり取りをするシーンなんか胸がじーんとしましたね。
この映画の異星人、すごく優しいですよね。
最後、海底基地ごと浮上させてくれるシーンでは号泣してしまいました。
この映画はやっぱり長くても完全版で観ないと意味がわからないかもしれませんね。
ところで、巷で流行っている「ミュージックバトン」(正しくは「ミュージカルバトン」)なんですが、私からバトンを渡されるのっていかがでしょう?
もちろん興味がなかったら、遠慮なく断ってください。
starlessさん、音楽も詳しそうだし、どんな音楽がお好きか、個人的な興味もありましたので、ちょっとアプローチさせてもらいました。
投稿: つっきー | 2005/06/25 18:18
つっきーさん、こんばんは。
さきほど「シスの復讐」をレイトショウで見て帰ってきたところです。
かなり虚脱気味ですが、頑張って書きます。
> えぇっ、失敗作なんですか?
キャメロンは他が「ターミネーター」「エイリアン2」「タイタニック」ですから、期待が大きすぎるきらいがあります。だから「失敗作」あつかいなんでしょうか。「完全版」で出さなかったのもいけないのかな。当時は今と違って長い映画にはあまり寛容ではなかったでしょうから。
> えぇっ、美男美女が出てないんですか?
(大汗)(大汗)た、たいへん失礼しました。
あまり出演者の容貌についてはコメントしないようにしているのですが、つい筆がすべりまして。
「派手さのある出演者こそいないものの」でどうでしょうか?(笑)
> 「ミュージックバトン」
最近急に見かけるようになりましたね。よろこんでお受けしたいと思います。でも音楽の趣味、偏ってるんですよ、私。
投稿: starless | 2005/06/26 00:36
先々行レイトショーですね。
「シスの復讐」、どうだったでしょうか?
なんて聞いても、答えてもらいたくないんですよね。(笑)
レビューをアップなさっても、きっと自分が観るまでは読まないと思うし・・・。
でも”虚脱気味”という言葉の意味が知りたいですね。(単に疲れていただけだったりして)
あらためて「ミュージックバトン」のお願いにあがりました。
バトンを受け取っていただきありがとうございます。
音楽の趣味が偏っている方の方が面白い記事になると思いますよ。
まんべんなく聴いている人の記事より、クラシックでまとめている人、ヘビメタでまとめている人、80年代洋楽でまとめている人の記事なんか面白かったです。
路線がビシッと決まっている中で一曲くらい「ええっ」と思う曲が混ざってると、なお面白かったりするんですよね。(笑)
楽しみにしております。よろしくお願いします。(〆切とかありませんので、ご都合の良いときでいいですよ、念のため)
投稿: つっきー | 2005/06/26 11:11
> 虚脱気味
自分にとって、かなり「感情が揺さぶられる」映画でした。冷静に観れない映画はとっても疲れますね。
シリーズのファンであれば、必見でしょう。
自分の中にある「サーガ」が一回りしてつながるわけですから。こういう感情を「感無量」というのかもしれません。
> 一曲くらい「ええっ」と思う曲が混ざってると、なお面白かったりするんですよね。(笑)
5曲しかないので混ぜられませんでした(笑)。すいません。
あの路線から見て意外なものというと、宇多田ヒカルが好きなことくらいでしょうか。
彼女の声が好きなんですよ。かすれてビブラートのかかった。きっと彼女のお母さんから脈々と受け継がれている「日本の情念」が、ハードロックとつながるものがあるんでしょうね。
投稿: starless | 2005/06/26 13:18