ブラックホーク・ダウン
1993年、ソマリア内戦に軍事介入したアメリカ軍のヘリコプター(ブラックホーク)が作戦行動中に撃墜された実話を、リドリー・スコットが映画化したもの。
内容は、徹底したアメリカの負け戦の描写である。敵の本拠地に強襲をかけた際にブラックホークが撃墜され、アメリカ軍の誇る精鋭デルタ・フォースとレインジャー部隊が救出に向かう。そこに押し寄せる数千人のソマリア人民兵。救出部隊は孤立してしまうが、なんとか別の救援部隊が駆けつけるまで持ちこたえ、命からがら逃げ出す。これだけ。2時間以上にわたってひたすらこの市街戦が描かれる映画なのである。
インターネットの映画関係のサイトでこの映画について論じられるとき、よく論点となっていることがある。「この映画はアメリカの軍事介入を肯定するものであるか?」「この映画はアメリカを礼賛するものであるか?」
リドリー・スコットがどのような政治信条を持ち、ソマリア派兵についてどのような意見を持っているのか私は知りませんが、この映画の中で語られているのは、「彼ら(アメリカ兵)は仲間を守るために戦っているだけである」という一点のみだと思われます。
実際この映画を見てみれば「仲間のため」というのが嘘でないことが解ります。これはヒロイックな自己犠牲などではなく、「それしかできない」のです。この映画に描かれている市街戦の現場はまさに大混乱状態です。指揮系統も乱れ、そこには正義や大義はありません。そこにあるのは「撃たれる前に撃て」「なんとかして生き延びろ」という人間の生存本能だけなのです。つまり仲間の命と自分の命を守ること以外にできることなど何もないのです。
リドリー・スコットは映画の中に戦場を再現し、彼らが「とにかく自分と仲間が生き延びるためにがんばった」ことを描いただけなのではないでしょうか。「軍事介入が正しいのかどうか、アメリカが正義なのかどうかはともかく、彼らはがんばったのだ」と。
リドリー・スコットにとって、軍事介入の是非は彼がそこで述べるべき事では無かったのでしょう。それらについては、この映画を見たアメリカ人が各々考えればいいことなのですから。自国の優れた若者をこのような地獄に送り込んだ当事者として。
#019
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