A.I.
故スタンリー・キューブリックの企画をスティーブン・スピルバーグが映画化したSF映画。キューブリックとスピルバーグ、どう考えても芸風の違う2人がなぜ同じ企画に興味を示したのか気になって、当時劇場に足を運んだ映画です。
不治の病で一人息子を人口冬眠(?)保存中の夫婦。その悲しみを紛らわせるために、人を愛する機能を持った新型ロボット「デイビッド」が作られた。母を愛することをインプットされたデイビッドに対してはじめは抵抗を持った母も、やがてその愛を受け入れるかに思えた。が、ある日奇跡的に病から回復した実の(人間の)息子が家に帰ってくると、家族のバランスは一気に崩れ始める。
冒頭で「永遠の愛をインプットされたロボットを作るなら、その愛を受ける人間の側にも責任が生じる」をいうようなセリフがありますが、デイビッドの永遠の愛に対して母はどう答えるのか、人間にとって「永遠の愛」とは何なのか、この点がこの作品の問題提起なのでしょう。
スピルバーグの意図は分かりませんが、わたしには「永遠の愛とはグロテスクなものだ」と思えました。数十年という短い寿命をあっという間に駆け抜ける人間にとって「永遠」などという概念は無いに等しいでしょう。逆にそうであるからこそ、たまたま出会ったもの同士の間で生まれる「一瞬の愛」がかけがえのない価値あるものになるのではないでしょうか。移ろいやすい人間同士だからこそ、いまある愛を大事にできるような気がします。
これに対してデイビッドの愛は、人間にとって無限とも思える期間続くものです。相手が心変わりしようがどうしようがお構いなく、ひたすらの純愛なわけです。これを受け止めるのは人間には無理でしょう。お母さんがデイビッドを山に捨てに行った気持ちもわからなくもありません。私に言わせればこれは「愛」ではなくて「妄念」ですよ。
この映画が「永遠の愛のグロテスクさ」を描こうとしたものならば、キューブリックの企画というのもうなずける話です。デイビッドをけなげに描けば描くほど不気味に見えてくるわけです。でもこれは「スピルバーグ」の映画ですから。少年を救われないままにしておくとも思えないのです。
物語の後半、2000年後の地球では人類が氷河期で絶滅していました。人類を調査するために地球を訪れていた宇宙人は、氷河の中からデイビッドを掘り出します。デイビッドのメモリーを読みとった宇宙人は、一日しか保たないお母さんのクローンを作りあげ、デイビッドはお母さんと一緒に幸せな一日を過ごします。
本来このパートは、デイビッドの「妄執」を解き放つ「お祓い」になるべきだったんじゃないでしょうか。「いくらロボットだからといって2000年以上もこんな気持ちで居続けるなんてかわいそうじゃないか」と気を回した宇宙人が、昔の家をそっくり再現し、クローンのお母さんも作る。何も知らずに目を覚ましたデイビッドは、ついにお母さんに愛されることができました。デイビッドが幸せな気持ちで眠りについたところで宇宙人が彼の機能を停め、「やっとこれで成仏できるね」となって終了。これなら最後になんとかデイビッドも救われ、スピルバーグらしいオチもつけられたと思うんですよ。
でも本作では、目覚めたデイビッドに対して宇宙人は「お母さんはもう死んでしまったこと、ここは本当の家ではないこと、遺体の一部からつくったクローンは一日しかもたないこと」をきっちり説明します。そしてそれにも関わらず、デイビッドは宇宙人に母のクローンを作ることを強要するのです。そしてお母さん(のクローン)と再会したデイビッドは、実に幸せそうな一日を送るのです。
私には「不気味」にしか思えませんでした。スピルバーグ、こんな終わり方でいいの?あれでデイビッドは救われたのでしょうか?
#017
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- マグニフィセント・セブン(2017.02.18)
- ザ・コンサルタント(2017.01.28)
- 本能寺ホテル(2017.01.23)
- アンダーワールド ブラッド・ウォーズ(2017.01.09)
- Year 2016(2016.12.30)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんばんは。
昨夜のうちにこちらにもコメントをつけようと思っていたのですが、ココログが非常に重くて・・・(いい加減、改善して欲しい>niftyさん)
そうしたら、トラックバックも先を越されてしまいましたね。(笑)
starlessさんのレビュー、読んで「うんうん」と頷くところがたくさんありました。
「永遠に続く愛」は確かにグロテスク、気味が悪いですね。そういう風にとらえると、キューブリックが映画の素材にしたかった気持ちも理解できます。
最近のスピルバーグは何の影響を受けたのか、以前の心温まるハッピーエンドから、非情な現実を突きつけた上で相手の希望を問いかける結末にご執心な印象を受けます。
キューブリックの企画だからそういう結末にしたのか、今の重苦しい現実社会を映画に投影しようとしているのかはわかりません。
でもスピルバーグならではの”良さ”をなくさないで、エンタテイメントに徹した映画作りに立ち返って欲しいと感じました。
『カラー・パープル』『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』のようなシリアス路線はそれで成功しているのですから、エンタテイメント路線も大切にして欲しいなぁ・・・なんて思うのは私だけ?
投稿: つっきー | 2005/06/10 17:30
重い中、ありがとうございます。
ココログを始めて1か月。文字だけだから軽いのかと思っていましたが、以外に重くてびっくりです。それだけ利用者が多いのでしょうか。
>でもスピルバーグならではの”良さ”をなくさないで、エンタテイメントに徹した映画作りに立ち返って欲しいと感じました。
これはまったく同感です。
スピルバーグの監督作品を年代順に並べてみると、82年の「ET」以後、ルーカスの力を借りたインディージョーンズシリーズを除くと、91年の「フック」まで10年近く娯楽ものが無かったのですね。わたしはこの10年間のシリアス&感動もの時代ですっかりスピルバーグに幻滅してしまいました。見もしませんでしたから。
そして「フック」のあと、93年にはついにJAWS以来のパニックもの「ジュラシック・パーク」が発表されました。これは凄く期待して見に行ったんですよね、すごく混んでる中。でも、なんか「ほのぼの」してて、いまひとつ納得がいかないできだったなぁ。これを見て「やっぱりもうだめか」とスピルバーグ再幻滅。つぎに見に行った彼の監督作品が8年後の「AI」なのです。
でも、このスピルバーグの「変化」って、何かの影響というよりもただの「成長」なのかな、と最近は思っています。少年もいつかは大人になるんだなと。
最近はDVDでこつこつと「空白期間」の作品を見ているのですが、「シンドラー」や「ライアン」を「おもしろい」とか「楽しい」と表現していいのかわかりませんが、これらシリアスものも単純に映画としておもしろいのですよ。映画としてのおもしろさを追求している点では、今も昔も本質は変わっていないのかもしれません。エンタテインメントな題材でエンタテインメントを作るだけでなく、シリアスな題材でもエンタテインメントを作れるスピルバーグはやっぱりすごいな。宣伝でうわべだけ見て作品を判断しちゃいけないんだとすっかり反省してしまいました。
「AI」以降は「マイノリティー」「ターミナル」と比較的娯楽よりの作品が続いているので、毎回見ています。次の「宇宙戦争」も期待しています(極悪エイリアンらしいけど)。ここだけの話ですが、映画のおもしろさでいったらエピソード3より上かも。
投稿: starless | 2005/06/11 00:14
こんばんは。
私はスピルバーグ監督作を観るとき、いつも必ずチェックしている部分があります。
それはずばり”親子愛”、特に”父性”へのこだわりです。
どこかで映画評論家が「フック」について、「スピルバーグの”父親”へのこだわりがこの映画のエンタテイメント性を損なわせている」と書いているのを読みました。
そのときは「フック」は確かに仕事に追われて、子供をかまってやらない元ピーターパンの話だから、”父親”の存在にこだわった映画になるのは仕方ないだろうと思っていたのですが、その後の「ジュラシック・パーク」を観たときに、この評論家が指摘していることは的を射ていると思いました。
サム・ニール演じる子供嫌いの博士が、二人の子供を助けようと頑張るうちに”父性”に目覚めていってるではありませんか。
ラスト・シーンはサム・ニールに寄りかかって安らかに眠る二人の子供のカットです。
それからスピルバーグ作品を観直してみると、いろんなところに”父親”が登場しているんです。
「E.T.」は離婚したシングル・マザーの一家が舞台でしたが、子供たちは母親の前でつい居なくなった”父親”の話をしてしまいます。
E.T.を追いかける組織の男性、腰にたくさんのカギをぶら下げていて、なかなか顔を見せませんが、あれは深読みすれば、あの一家に欠落している”父親”を暗喩する男性なのだそうです。
「A.I.」では父親ではなく母親でしたが、やはり”親子愛”を描いています。
「ターミナル」でも主人公が優先したのは”父親との約束”でした。
そしてトドメが今度公開される「宇宙戦争」。
テーマは”家族愛”、スピルバーグは「これまでのSF映画に欠落していたものが描けて最高の作品になった」と話しています。
つまるところ、私はスピルバーグを究極のファザコンだと思って、彼の作品を観ているわけです。(苦笑)
決して嫌いなわけじゃないですよ、念のため。
「宇宙戦争」でトムがどんな”父親”を見せてくれるのか楽しみです。
長々と申し訳ありませんでした。
投稿: つっきー | 2005/06/16 16:00
たしかに「宇宙戦争」も親子ですね。
> 「これまでのSF映画に欠落していたものが描けて最高の作品になった」
この「欠落していたもの」が「家族愛」なのでしょうか?
予告編を見るともの凄い阿鼻叫喚なのに、あんな中で家族愛描けるんでしょうか?心配です。
まさか「家族愛」で退治するとか。
投稿: starless | 2005/06/16 21:49
先日のジャパン・プレミアでのトムの話。
「テーマは家族。未来を担う子供たちを守るために、父親としてどこまでできるかに挑戦した」
同じくスピルバーグの話。
「SFに欠落していた人間からの視点を融合させた。かつてやったことがないことができた」
多少の不安は残りますが、楽しみに待ちましょう。
期待が少ないほうが、当たったときの喜びも大きいですから。(笑)
投稿: つっきー | 2005/06/20 11:56